「モーターサイクル・ダイアリーズ」
ウォルター・サレス監督,ガエル・ガルシア・ベルナル,ロドリゴ・デ・ラ・セルナ出演(2003,英米)。
チェ・ゲバラの若き日々の南米バイク旅行を描く作品。友人と二人で最初はバイク,そして徒歩の旅。いわゆるロード・ムービー物ですね。
やっぱり旅ですね,旅。若い時には旅をしなくちゃだめですね。ぼくもどかーんと旅に行っておくべきだったと今になって思いますね。時々行く美容室のお兄さんは,一念発起してほぼ世界周遊の旅をしたんですが,旅をしないで死ねるかというもんです。
そういう想いがあるかどうかで,この映画を楽しむことができるかどうかが分かれるでしょうね。チェ・ゲバラは出ていますが,彼はまだ「ゲバラ」にはなっていません。若者の成長のドラマとして見ながら,関心をもったらゲバラに入っていく。なかなか面白い映画です。
実は口にするのも恥ずかしいのですが,ゲバラについてはキューバ革命の立て役者ということや,あれやこれやの話は聞くのですが,実はまともに一冊の本も読んだことがありません。なので,ゲバラが喘息を患っていたというのは,ちょっと意外でした。結構小児喘息とかに苦しんだ人っていると思うのですが(ぼくも喘息党の一人です),喘息持ちって,ひ弱そうに見えて実は丈夫だったりします。
また,あの呼吸の苦しさを耐えることによって,なんか苦行をしたような達観を得ることができたりして実は,デメリットよりもメリットの方が大きいのではないかと密かに思っています。
さて,映画が後半に進むに連れ,若者は現実を考え始めます。ペルーの先住民の置かれた境遇に想いを巡らし,ハンセン病患者を川でもって分離している現実に目を向けます。歴史をたどれば,南米は「西洋」に収奪されてきたではないか,我々南米の民族は団結していくべきではないか,ちょうどハンセン病患者たちを遮っている大河のように分離されている現実。川を泳ぎ切った彼には,目指すべき物が朧気ながら見えたのでしょう。
現在の変わりつつある南米の光景(米国の策動による数多の悲劇を乗り越え,ようやっとアメリカとの関係を相対化する傾向が強まっている)と重ね合わせると,ゲバラが旅を通して見た理念が少しずつ前に進んでいる気がします(もちろん,それは
「ビフォア・サンセット」でセリーヌが示した焦燥のように,決して楽観視ばかりもできないけれど)。
結局,その方法論については異論があるかもしれないけれど,この世の中から貧困や不正義を無くしたいという心意気は,誰が何と言おうと若者が目指すべきものなのです。それが見えなくなった時,人はどうしても旅に出るべきだろうと思います。

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