
「破戒法廷」 ギ・デ・カール著,三輪秀彦訳(創元推理文庫,1984)。
法廷物の推理小説。ギ・デ・カールは,フランスの風俗作家。軽罪事件の弁護しかやらないパッとしない老弁護士のヴィクトル・ドリオのもとに,弁護士会の会長から重罪事件の事件依頼が来た。もちろん,受け手がいないから回ってきた事件だ。
事件は,目が見えず,耳が聞こえず,しゃべることもできないという三重のハンディを持つジャック・ヴォーティエが船上で殺人を犯したという殺人事件。被害者の船室で,手を血まみれにし,至るところに指紋が残る状況,それに被告人は一貫して犯行を自白。
ドリオは,公判に臨む。
法廷ミステリーの古典的作品です。読者は陪審員になったかのように,法廷での審理を通して事件の真相に迫っていきます。三重のハンディキャップといえば,やっぱりヘレン・ケラーを思い出しますよね。
本書でも,被告ヴォーティエがハンディを乗りこえていく描写に多くを割いています。ヴォーティエは,学院のサポートにより自らの経験を踏まえた小説を描き成功するに至ります。また,幼い時から彼を看ていた美貌のソランジュと婚姻し,一緒にアメリカツアーにも行きます。今回の事件は,その帰りの途上での出来事です。
風俗作家だけあって,人間描写は巧みです。ドリオの弁論もうまいですね。証拠関係をもとに弁論を流れるようなストーリーに仕立て上げるというのは,やはり熟練の技という感じがして,ドリオという老弁護士の設定にマッチしています。
意外な掘り出し物でした。なお,現在は絶版のようですが,古本屋などでの入手はそれほど困難ではないようです。

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