「大発見」 辰巳ヨシヒロ著(青林工藝舎)。マンガ。
元祖劇画の辰巳ヨシヒロの短篇集。元祖劇画と銘打っているけれど,いわゆる劇画のマンガで構成されている訳ではない。こちらもあまり期待しないで読み始めたのですが,良かったです。
帯には,「負けグセのセオリー」と書いてありますが,日陰者たちの心理をうまく描いている大人のマンガという感じ。
「男一発」
定年退職を控えた主人公。娘婿とまで関係を持った妻は,今では彼の退職金をあてにしている。そんな生活に嫌気が差した主人公は浮気をして退職金も使い果たしてやろうと決意する。しかし,まあ,そんなにうまく行くものでもない。そりゃそうさね。
靖国神社をこうやって使ってしまうというのが何かすごいですね。
「はいっています」
子ども向けマンガを追い出された主人公がある日トイレの落書きに出会う話。
「わかれみち」
中学時代の友人がやっている寿司屋でつぶれる主人公。路面電車のパンダグラフが放つ光が昔のちょっとした記憶を呼び起こす。
「さそり」
刑務所帰りの主人公。現実は,思う通りにはいかないという何ともいえない感覚をマンガでよく描いた。
「飼育」
バーのママのひもになっている男の話。
「東京うばすて山」
高齢の母親の面倒を見る主人公。恋人が二人で一緒に住もうと誘っている状況では,母親の存在は一つのハンディキャップ。しかも,母親の彼に対する昔の態度を思い起こせば,面倒を見なくたっておかしくない。しかし,それは人,感情は複雑でそんなに簡単ではない。そういった複雑な感情をマンガで描いてしまうのだから恐れ入る。
「けもの・なみだ」
忌まわしい過去から逃れた二人の前にあの男が再び現れた。
「コツコツコツ」
普通の社会生活を送りながら,実は靴フェチの主人公の倒錯の世界を描く。しかし,倒錯していても彼は社会に適応して生きている。
「ORIZURU−S君への手紙−」
人肉食事件の佐川と対比しながら,しかし,相変わらずパッとしない主人公を描く。著者の視点の先をよく示している。
「再会」
失恋をし,葬儀屋で働く主人公は思わぬ再会を遂げる。
「いとしのモンキー」
機械工の主人公の見た甘い夢。しかし,やはり現実は厳しかった。なんか泣ける作品が多いね。感情というものへの理解っていうのが深い。
「グッドバイ」
敗戦直後。米軍に体を売る娘とその父親。
「大発見」
バブル崩壊後,好景気とは打って変わって冷遇される主人公。そんな主人公が後ろ向きに歩くと世界が変わるばかりか・・・驚くべき大発見をした。快作。
どの話も完成度が高いです。

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