ワンコのその3です。
今度は敦紀視点。
・・・短いです(^^;
3.
何が起こったんだろうか。
俺は呆然としたまま今、目の前で起こった出来事を見ていた。
一紗がこの間殴っていた男を、そのまま店へと引きずり込んで行ったのだ。
殴ったときは、あの男が一紗のなんなのかがわからなかったけれど、なんか『恋人』がどうとか言っていなかっただろうか。
って、一紗の奴、俺のことも思いっきり雷覇さんの恋人だって言ってたよな……。
知らない人間に言ったらびっくりされるのに、こんな往来でなに叫んだんだよ!
俺は顔がかっと熱くなったのがわかると、慌てて店の中に飛び込んだ。
往来で真っ赤な顔を見せていたら、それこそ何があったのかって思われるもんな。
とそこまで考えてから自分のことを考えてどうすると思い立って、思い切り頭を横に振った。
そうだよ、一紗だ。
一紗はあの男に向かって『恋人がそばにいるのに』って怒鳴ったんだよな。
って事はあの男は一紗の恋人?
でも、自分で一紗の幼馴染って言ってたよな……。
どっちが正しいのだろうかと首を傾げながら、店のカウンターまで歩いた。
そこには雷覇さんと海里さんがいる。
二人に聞けば、一紗とさっきの男の関係がわかるよな。
俺はうんと頷いてからカウンターに近づくと、中にいる雷覇さんに声をかけた。
「すみません、雷覇さん。ちょっといいですか?」
「ああ、かまわないが、どうしたんだ?」
カウンターで常連客の話を聞いていた雷覇さんが俺のほうへと顔を向けてくれた。
その顔がとても優しげで俺は思わず顔をにやけさせてしまったが、すぐに首を横に振ってそのにやけ顔を消すと、遠慮なく雷覇さんに話しかけた。
「あの……さっき一紗が引き摺っていった男なんですが……」
「ああ、そういえば怒鳴ってすぐに彬を引き摺って行ったな。
彬がお前にちょっかいでも出してきたのか?
まぁあいつは一紗一筋だから、一紗の勘違いだと思うんだが」
「へ?あの男を雷覇さんも知ってるんですか?」
「ああ。あいつは一紗と誠の幼馴染で、竜崎彬というんだ。
昔から一紗によく懐いていてな、ここにも高校生のときにバイトできてくれたていた事があるぞ」
「あと、一紗の恋人ですよ。
高校生のときから付き合っているはずです。」
雷覇さんの説明にすぐそばにいた海里さんが付け加える。
その海里さんの説明を聞いて、俺は思わず目を見開いてしまった。
だってだ。確かに一紗本人から男の恋人がいるという話は聞いていた。
その恋人に本気で惚れているというのも、一紗の態度でなんとなくわかっていた。
でも……その恋人を普通殴るだろうか?
や、世の中には色々な恋人がいる。
中には相手を殴るのが愛情表現だって言う恋人同士だっているだろう。
でも、普通は床に昏倒するまで強く殴らないと思うんだけど……。
それが一紗の愛情表現なのだとしたら……相手の人はよく耐えてられるよな……。
俺は一紗の消えた作業室に視線を向けると、思わず溜め息を漏らした。

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