※本件を元にメーカーに問い合わせなどをされても、当方は一切関知しないのであしからず。
また手順や内容が前後することがあるので全部読んだ上で方法を検討・判断したほうがいいかも。
●1.概要
オムロンヘルスケア社製の体重体組成計 「HBF-201」で液晶表示の不具合が多発しているようなので修理してみた。
しかし下記リンクにあるように、別機種ながら無償修理の例もあるようなので、メーカーにはちゃんと言った方がいいかも。
ただ…原因調査と対策をしないで製造時と全く同じ方法の修理をされたとしたら、また同じ原因で断線しそうな気が…どうなんだろう。その辺、どういう対策をして戻されるのか興味はあるが。
メーカーも、ブランドを守るためには損を出しても守らなければならないことがあるということをもっと認識すべきかと。

OMRON HBF-201
○以下、関連リンク
・オムロン HBF-201 製品情報
・
「オムロンHBF-201」 kakaku.com 口コミ
・
「オムロンHBF-362」「 液晶表示の故障を無償修理していただきました。」 kakaku.com 口コミ
・
「故障! 開けて見たら欠陥であった。 オムロンヘルスケア 体重体組成形HBF−362」
↑
トップページから「欠陥のある家電製品」の画像をクリックする
※2014年06月25日現在、アルファインターネットのDTIへの統合に関するものなのか、上記はリンク切れになっている様子。
HBF-370でも同様の不具合が発生している様子。
●2.原因調査
HBF-362やHBF-357(セパレートタイプ)でも同様の不具合が発生している様子…HBF-200もほとんど同じ構成のようなので可能性あり。
写真1 液晶表示不具合の様子

初期の体重測定画面 「0.0kg」と表示してるらしい
不具合の原因は、カーボン印刷タイプの導電フレキが断線あるいはフレキ接続部が接触不良となってしまうもの。確認方法としては、分解してフレキ周辺を手で押さえると正常に表示することがあるのですぐに原因がわかる。
カーボン印刷タイプのフレキはもともと耐久性・機械的強度が弱いが、さらに調べてみると根本原因はどうやら2つの問題があることがわかった。
・問題点1:制御基板と液晶の取り付けが平行でない設計にもかかわらず、設計時に考慮していないためフレキ取り付け時に歪みが生じ、それが全てフレキを曲げた部分や接続部への負担となる
・問題点2:補強のためか、フレキに透明のテープが貼られており、貼る際に歪んでいる(もしくは問題点1の補正のためにそうせざるを得ない?)ため、フレキが引っ張られて接続部に応力がかかり日常使用時の振動で断線に至る
問題点1については後述の代替フレキを作成する際や基板取り付けネジ穴を加工するなどの対処をしないと、液晶側の端子位置と基板側の端子位置にずれが生じることから判明。
問題点2は断線時のフレキの状態(写真2〜4)を参照。
写真2 液晶と制御基板接続の状況

写真3 液晶側のフレキ接続状態

写真4 制御基板側のフレキ接続状態

※カーボン印刷フレキは鋭角に曲げたりしわを付けると断線しやすくなるので
こういう処理はしないものだが、これは取り付け状態がかなり悪い。
大きめのRを付けて曲げるなど応力が集中しないようにするのが一般的。
●3.液晶ガラスの導電ペーストや弾性接着剤除去
今回の液晶のガラスにはITO膜(tin-doped indium oxide、酸化インジウムスズ)という透明な導電性回路が形成されていて、ここにカーボン印刷フレキが導電性接着剤で接続され、液晶制御基板に接続される。このITO膜に当然ながらはんだ付けはできない。また、不具合の起きているフレキは断線していて再利用できない。
不具合の起きている液晶はフレキと導電性接着剤、および応力緩和と保護目的で透明な弾性接着剤が周辺に塗布されており、これらを除去する。
除去には特に薬品などを使わずに、実体顕微鏡で見ながらつまようじや竹串などでガリガリと擦って剥がしていく。除去にはできるだけ金属を使わずにITO膜の破損を回避したいところだが、どうしても剥がれない場合にはカッターの先端などで軽く擦ったがITO膜は剥がれたり断線したりすることはなかった。
後でITO膜には異方性導電ペーストでFFC(フレキ)を接続するので、表面をきれいにしておく。細かいゴミの除去には練り消しを押し当てて取るのが効果的(練り消しは擦らないこと。ゴミが出るのと、静電気が出るため)。
写真5 液晶端子の状態(不要物除去後)

カーボン導電フレキや導電性ペーストを剥がした後の様子。
白く反射して見える縦の縞模様がITO導電膜部。
液晶表面は保護のため剥がしやすいテープ
(養生テープなど)を貼っておく
制御基板側の端子もフレキのカーボン導電膜や異方性導電ペーストが付いているので除去しておく。こちらは多少傷が付いても問題ないので、カッターの先などで削っていく。
端子は金めっきの下地になっていて、こちら側ははんだ付けで接続するので予備はんだしておく。
写真6 基板側の端子

カーボン導電膜や導電ペーストを剥がしてる様子。
左上の端子3つはカーボン導電膜が付いている状態、
右下4つが剥がした後。このままでははんだが乗り
にくくなるのできれいに剥がした後、パターンの
金めっき表面に予備はんだをしておく
(写真はまだはんだを乗せていない)
●4.代替フレキの作成
住友電工のスミカードほか各社、どこのものでもいいのでFFCを用意する。
参考資料
・
FFCステーション 各メーカーのFFC(
住友電工 富士電工株式会社 )
・
FFCの主な製品仕様(
住友電工 富士電工株式会社 )
仕様は1mmピッチ、40ピン、多ピンのものが入手できない場合は20ピン以上のものをうまく横につなげて40ピンを確保する。
端子幅は0.7mmくらい(できれば0.6mmのものが使いやすいかもしれない)、長さは適当…だいたい端子部3mm×2+制御基板⇔液晶ガラスまでの距離13mm=19mmくらい。
長さもぴったりのものはなかなか売っていないと思うので、適当に加工して使う。作成に失敗したときのために倍以上の長さを確保しておくと楽。
この長さは参考程度として、その個体にあった長さに微調整する。必ず切る前に現物に当てて長さが正しいか確認する。
今回は手持ちの26ピン相当FFCを21ピンと端数(こちらは使わない)、19ピンと端数(こちらは使わない)に分割して、19ピン、21ピンのものを横方向につなげて40ピンFFCとして使用した。この場合そのままでは扱いづらいので、梱包用透明テープなどでピッチが合うようにうまく一体化させる。
写真7 FFC

端子部を90°に曲げてコの字型のFFCを作成する。なお最終的に取り付ける際は基板と液晶が平行ではないこと(先述の問題点1)をFFCを曲げるとき考慮する。具体的には、基板を下にして液晶と制御基板のFFC取り付け面(側面)を正面から見たときに、FFCオモテ面はFFC右側の長さに比べてFFC左側は距離が短くなるよう、かつ基板側に接続するFFCの各端子が同じ長さと角度になるようにして端子を90°に曲げる。曲げた後に基板と液晶に当ててみて角度がだいたい問題ないか調べ、合ってないようなら何度か曲げ直す。二、三度程度なら曲げ直しても断線することはないが、あまりやりすぎると歪んだり断線してしまうので注意。なお、これで問題点1を全て解決できなくても後述するネジ穴の修正(「5.制御基板の加工」を参照)である程度の位置調整ができるが、液晶側にFFCを接着した後では修正の割合が微々たるものなので、フレキ形状と角度で位置合わせがほぼ一致するように液晶側のITO導電膜にFFCを当て、その状態でFFCの基板側端子と基板の接続パッドが一致するか確認しておく。
写真8 FFC取り付け状態

※写真を撮り忘れたので既にACPで接続した後の写真で代用
図1 加工するFFCの詳細

※2014年11月07日 図を修正、FFC片側は片面のみ絶縁被覆を剥がす
FFCの補強板(端子部分を補強している青いプラスチック)は使わないので剥がしておく。
FFCを必要な長さに切断し、切断面は端子を露出させる。露出させる面を間違わないように注意。端子の露出方法は、片面側に軽くカッターで切り目を入れて少しずつ絶縁被覆を削っていく。カッターを入れすぎると導体に傷が深く入り断線や急な角度に折れやすくなるので注意する。絶縁被覆はOLFAカッターの刃切断面(背の部分)を使うと削りやすい。
※2014年11月07日追加
FFC加工図と実際の接続部の写真で違いがあったので修正。液晶側に接続するFFCは液晶の透明電極に接する側のみ絶縁被覆を剥がす。理由は、全面絶縁被覆を剥がしてしまうとFFCのパターンそれぞれがバラけてしまい平坦性が失われることと、絶縁被覆のある場所と無い場所での段差の発生を抑えて異方性導電ペースト接続時の押し当て圧力を均等にするため。
写真9 FFC作成失敗例

問題点1を考慮しなかった場合のFFCの端子位置
FFCの右側に行くにしたがって基板側との誤差が累積し、
それでも無理に合わせようとした様子
●5.異方性導電ペースト作成
液晶とFFCの端子を接続するためには異方性導電ペースト(Anisotropic Conductive Paste=ACP、 垂直方向には導通し水平方向には導通しない導電ペースト)を使用するが、市販のものは高価だったり入手性に問題があるので自作することにした。
市販のものに比べて導電性や接続信頼性、接続強度は劣るかもしれないが安価に作れる。
2014年11月25日追加
特性などの参考として、市販の異方性導電ペーストの資料を示す。
・
スリーボンド 異方性導電ペースト(3371)
・
スリーボンド テクニカルニュース
平成8年7月1日 第47号 異方導電性接着剤(PDF)
・
積水化学の異方性導電ペースト
・
積水化学 リフロー実装異方性導電ペースト
エポウェル APシリーズ
・
京セラケミカル 異方性導電接続ペースト ←リンク切れのためInternet Archiveで代替。
ACPの自作には以下の材料を使う。だいたい300円くらい。
1)ケース(写真は充填豆腐の入っていたポリエチレン?の入れ物)
エポキシの混合や備長炭粉末の入れ物として使う
2)エポキシ混ぜ棒 つまようじなどでも可
3)2液混合タイプのエポキシ 10分硬化タイプ 某大手100円ショップのもの
4)右端の黒い塊は備長炭の粒
備長炭など炭素ならなんでも問題ないはず。おそらくカーボンならシャーペンの芯や鉛筆などなんでもいいが、トナーはバインダーや定着剤が入ってたり細かすぎそうなのでNG
5)金ヤスリ 粒度不明だがおそらく600〜800番くらい、某大手100円ショップのもの
写真10 異方性導電ペースト作成の材料と工具

写真11 使用した備長炭

まず備長炭または鉛筆の芯、シャーペンの芯いずれかを導電性フィラーとするために粉にする。金ヤスリで細かくした際に大きめのくずとなった場合は除いておく。鉛筆やシャーペンの芯の方が粒子が均一になるかもしれない…。
この導電性フィラーはエポキシに混ぜた後はスペーサーにもなり、接着面積を増やして接着強度を上げる効果もある(あと、エポキシ未硬化分のベトつきを炭素が吸収して抑えられる気がする)。
エポキシに対してカーボンを混ぜる量は…適当。写真の容器に入ってるエポキシの量に対して写真の備長炭一粒分の炭素フィラーでフレキ接続後は問題なく導通した。
ACPを作成したら徐々に硬化が始まるので液晶のITO導電膜部分に手早く塗布してFFCを位置決め・貼り付けしITO部分へ均等に適切な圧力をかけ固定する。FFC固定は液晶に基板を取り付けた状態で行うが、このときに基板側のFFCははんだ付けしていない状態なので、ズレやすく注意が必要。また液晶に圧力をかけすぎると当然ガラスを破損するので、割れない圧力となるようにあらかじめ見当をつけておく。
固定後、ACPが未硬化の状態でドライヤー等を使って適度に加熱すると、ACPの流動性が良くなり、熱で硬化が促進され、ACP内の空気が脱泡されるなどの利点がある。一方、難点としては滑りやすくなり位置ずれが起きやすくなるため均等に圧力がかかってしっかり固定されていなければならない。
また、ACPが硬化した後でもFFCの液晶ガラスに対する密着力は期待できないので、あまりFFC接続部分に応力がかからないように十分注意する。固定後は液晶とFFCの接続部裏側にエポキシやホットボンド、または弾性接着剤を塗布して補強しておくとよい。
写真12 エポキシと炭素フィラーを混ぜてACP作成

写真13 ACP塗布

写真14 ACP塗布部にFFCを貼り付けて固定

取り付けの圧力や位置が適切でなかったりすると写真15,16のように失敗する。
写真15 FFC固定失敗例

接着時に液晶とFFCの押さえが甘かったため接触不良/表示不良になった
写真16 FFC固定失敗例

ACPが上側に偏積硬化している様子
※2014年11月09日追加
FFCと液晶を異方性導電ペーストでつないだら、液晶の接続の可否判断するために、まだ制御基板とFFCとのはんだ接続はせず、写真14にあるクリップを流用してクリップ先端をテープなどで絶縁処理後、制御基板とFFCをクリップでとめて圧接のみの状態で動作テストし、液晶が正しく表示されるか調べ、表示が問題ない場合のみ次工程に移行する。
●6.制御基板の取り付けネジ穴修正とFFCのはんだ付け
写真17 制御基板の取り付けネジ穴修正前

FFC端子が基板の接続パッドとずれている様子
(はんだ付けはまだ)
先述の問題点1に関連して、位置ずれを考慮しないとFFCの端子と基板側の接続パッドで位置が合わない。
これに対処するため、制御基板の液晶取り付けネジ穴を長穴に加工し直す。これにより基板取り付け位置の微調整が可能となり、かつ先のフレキ作成の際に行った角度付けで液晶と基板が完全に平行でなくとも、フレキの端子位置と基板のフレキ接続パッドの端子位置間を調整・一致させるようにする。これによってフレキが引っ張られずフレキや導電性接着剤、端子部分に無駄な応力がかからないようにする。
基板取り付けネジ穴を長穴に加工したら、基板を取り付け、FFCと基板側の接続パッドとの位置が合うように調整する。
写真18 基板の取り付けネジ穴を長穴に変更

写真19 FFCの基板側接続部 よい例

基板取り付け穴の修正でFFC端子と基板の接続パッド位置が一致
(この写真でははんだ付けはまだしていない)
正しく位置合わせしたところで制御基板側のFFCもはんだ付けし、動作テストする。異常なければ修理完了。
写真20 正常に戻った液晶の表示

2014年11月25日追加
●7.その他の修復方法 ※当方ではこの項目の内容について実際に行って確認していない。
Aitendoの
ヒートシールコネクタ1.0mmピッチはこの体重体組成計で使われていた本来の液晶接続方法と同様に、カーボン導電パターンを熱圧着して接続をするタイプになっている。これを用いれば前記のような導電ペーストを自作したり条件を模索したりすることなく接続が行えそう。しかし売っているのは36ピンのため、4ピン分追加で付ける必要がある。
それから先の問題点1に挙げた点は解消されないので、対策としてネジ穴位置の調整ができるように基板固定穴の拡張が必要。また問題点2に挙げたシワによる断線も再発する可能性があるのでヒートシールコネクタを鋭角で曲げないこと、しわを付けないこと、接着後は弾性接着剤などで接続部に応力がかからないようにするなどストレスを与えない対策が必要。
なお、ヒートシールコネクタ(350円)は専用のこて先(390円)とヒーター用ゴム(290円)も必要なので多少コストはかかる(合計1030円(税別))。
コストをかけて早く修理を済ますか、手間をかけて安く済ますか(+テクニックが必要)のトレードオフになる。
液晶の異方性導電ペーストや異方性導電シートの断線修理方法で、
はんだごてにクリップを付けて加熱する方法もあるとか。
上記と同じ方法のもっと詳しい写真入りの説明
2016年02月06日追加
CPU情報追加
写真21 搭載CPU

H8/38327グループ(PDF)
HD64338326(マスクROM版のみ)と思われる。
パッケージはTQFP-80。
2016年06月15日追加
その後も現在まで表示不良は起きていないので、自作の異方性導電ペーストによるこの修理方法は意外と信頼性あるのかも…?
2017年04月09日
文章を少し修正
2020年08月06日
経過観察、現在も問題なく使用中。
KEYWORD:オムロンヘルスケア 体重体組成計 HBF-201 液晶 不具合 故障 修理 フレキ FFC ACP 異方性導電ペースト自作