全集第27巻P454〜
支那伝道の義務
12月7日 柏木今井館における世界伝道会例会において読む。
大正12年(1923年)1月10日
「聖書之研究」270号
◎ 支那は大国です。支那本土に満州、蒙古、伊犁(イリー)、青海(せいかい)、西蔵(チベット)を合わせて、その面積は430万方マイルです。これは属領地を除いた日本帝国の二十七倍以上であって、ヨーロッパ大陸よりも遥かに大きいのです。
即ちアジア大陸の四分の一、全世界陸面のほとんど十三分の一です。そしてその人口は、四億数千万であり、世界総人口の四分の一です。そのような国柄ですから、その運命が全世界の運命に大関係があることは、言うまでもありません。
◎ そしてこの大国が、我が日本と最も近い関係にあるのです。人は支那と言うと、外国であるかのように思いますが、それはただ政治的にのみそうなのであり、地理的にも、人種的にも、人文的にも、支那と日本とは、決して別国ではありません。同国です。
単に大小の関係から言うなら、日本の支那に対する関係は、八丈島か小笠原島の日本本土に対する関係です。そして八丈島が日本を離れて独立することが出来ないように、日本は支那を離れて、完全な独立を保つことは出来ません。
日本の国土は、支那を太平洋中に延長したものに過ぎません。日本文明は、支那文明の進歩したものと見るのが真(まこと)です。
日本人が支那人の血族である事は、誰が見ても明白です。私ども日本人は、同胞六千万と言いますが、実は同胞四億六千万と称すべきです。
我が国は、秋津洲(あきつしま)八百余島ではありません。東は東海の浜から、西は天山、パミール高原に至るまで、北はシベリヤ国境から、南はヒマラヤ山脈に至るまでの大国です。
そのような大国を与えられながら、なぜ私どもは、「私は日本人だ」と言って、島国根性に自分を卑下しているのですか。
◎ 支那を御覧なさい。支那を御覧なさい。その四川省の一省は、その面積と富源とにおいて、日本国以上ではありませんか。その雲南省もまた、ほぼ日本大であって、立派に一国を成すに足りる国土です。
揚子江は、その長さにおいて、多分世界最大の河であって、その沿岸の生産力は、ミシシッピやアマゾンの生産力以上です。
そしてこんな国を我が国と呼ぶことが出来ると思えば、我が特権もまた大であると言うべきではありませんか。私ども日本人は、今日まで欧米の富強に憧れて、隣邦ではなく我が国支那を忘れていたことは、実に恥ずべき事ではありませんか。
◎ それではどうして支那を我が国とすることが出来ますか。太閤秀吉のように支那を撃って、これを自分の領地とすることによってですか。決してそうではありません。
イギリスやフランスやドイツやイタリアが、自らキリスト教国と称しながら、支那を蚕食(さんしょく)して、そこにその勢力を扶植(ふしょく)しようとしたのは、大きな間違いです。
我が国の軍人がまた、これら欧州の偽善国に倣い、支那を兵力によって獲ようとした事は、実に嘆かわしい事です。
国を獲る道は、唯一つです。それはキリストの愛です。兵力や金力によってではありません。福音の力によってです。
支那人を愛さずには、支那は得られません。そして支那人を愛すれば、私達は未だ支那に寸地を所有していなくても、既に私どもの心において、支那を我が国として獲たのです。
◎ ところが、事実はどうでしょうか。日本人は果して支那人を愛しているでしょうか。もし愛すると言うならば、その証拠はどこにありますか。
私どもは日本人が支那に利権を得たとか得るとかいう事を聞きました。しかし、支那に宣教師を送り、その闇を照らし、その病を癒し、その苦しみを慰める道を取ったか、その事を聞きません。
日本人は支那を経済的に見るだけで、博愛的にも、兄弟的にも見ません。その結果として、支那は日本に最も近い国でありながら、最も遠い国として存(のこ)っています。実に恥ずかしい事ではありませんか。
◎ 支那にとって、隣邦の日本は、遠方のアメリカまたはイギリスよりも、遥かに縁の遠い国です。アメリカもイギリスも、そして実に、小さなスイスまたはデンマークも、支那を愛する点において、遥かに日本以上です。
御覧なさい、イギリス人の支那伝道の盛んな事を。イギリスはかつて支那に対し、アヘン戦争という大罪悪を犯しました。しかしながら、その罪悪を償(つぐな)おうとして多くの英国人は、その生命と財産とを捨てて、支那人の救済に従事しているではありませんか。
有名なロバート・モリソン(
https://en.wikipedia.org/wiki/Robert_Morrison_(missionary) )は、115年前に広東に来て、先ず支那語に精通し、浩瀚(こうかん
:書物の分量が多いこと)六冊にわたる支那字典を著し、学校を設け、薬局を開いて支那伝道の基礎を作り、その貴重な生涯の全部を支那人のために献(ささ)げました。
支那内地伝道の創設者ハドソン・テーラー(
https://en.wikipedia.org/wiki/Hudson_Taylor )もまた、支那人の大恩人です。今や彼の後を継いで支那内地に伝道する英国人は一千人以上に達するとの事です。その他スコットランド宣教師W.C.バーンズ、蒙古人の使徒と称えられたジェームス・ギルモア、実に枚挙するに暇がありません。
(参考図書「奉天三十年」 http://www.amazon.co.jp/%E5%A5%89%E5%A4%A9%E4%B8%89%E5%8D%81%E5%B9%B4-%E4%B8%8B%E5%B7%BB-%E5%B2%A9%E6%B3%A2%E6%96%B0%E6%9B%B8-%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%82%B9%E3%83%86%E3%82%A3%E3%83%BC/dp/4004000262 )
同じ事がまた、米国人宣教師に就て言われるのです。ローマ天主教会もまた、早くからその力を支那伝道に注ぎ、今や改信者は百万人以上を数えるとの事です。
雲南(うんなん)、四川(しせん)、甘粛(かんしゅく)等、商人が行かない所にも、福音の宣伝者は行っています。
大砲や軍艦による支那征服は止んでも、平和の福音を以てする支那占領は休みません。我が国の軍人や政治家が夢想することさえ出来ない方法で、欧米人は支那征服を行いつつあります。即ちキリストの福音を以て、支那人の心を占領しつつあります。
これは単に政治上から見ても、日本国にとって小事ではありません。まして同胞の義務として、日本人の怠慢は、実に赦すべからずです。
◎ しかし、愛の無い人に愛を訴えても無益です。外国人と言えば支那人までも自分に関係ない者と見る今の日本人の多数に、支那伝道の話を持ち掛けても、何の反響もないのはもちろんです。
ところが私どもは、幸いにしてキリストの愛を知らされました。私どもは日本人同様支那人を、そして実にアフリカの黒人やアメリカの銅色人種を愛し得る事を、神様に感謝します。
ゆえに先ず隣邦の支那に対し、少しばかりの愛を表することを許していただき、これに合わせて支那人のために祈りたいと思います。
先ず今年のクリスマスに、「聖書之研究」読者世界伝道協賛会から、その最初の献金一百円を上海(シャンハイ)にある支那内地伝道会本部に送り、その事業に九牛の一毛に当る参加を許してもらいます。誠に少額で赤面の至りではありますが、無きに勝ると信じます。
そしてこれを初めとして、年毎に参加の度を増して、終(つい)には私どもの代表者を、支那億兆の内に送るようになる事を祈ります。
私は支那伝道を外国伝道として見ません。これを内地伝道の一部と認めます。支那人は私の肉の肉、骨の骨です。私に仁義の道を教えてくれ、私がキリストを知る前に、私を少しでも人らしい者としてくれた者、この支那人に対して、私は報恩の義務を負う者です。
完