全集第29巻P3〜
文化の基礎
大正14年(1925年)1月1日
「文化の基礎」5巻〔1号〕
◎ 文化の基礎は何であるか。政治であるか、経済であるか、文学であるか、芸術であるか。そうでないと思う。これらは文化の諸方面であって、その基礎ではない。文化の基礎は文化を生む者でなくてはならない。樹(き)があって果(み)があるのである。文化は果(み)であって、これを結ぶ樹(き)ではない。
◎
文化の基礎は宗教である。宗教は、見えない神に対する、人の霊魂の態度である。そして人の為す全ての事は、この態度によって決まるのである。
ギリシャ人の神の見方によって、ギリシャ文明が起こったのである。キリスト教の信仰があって、キリスト教文明が生まれたのである。その他エジプト文明、バビロン文明、ペルシャ文明、インド文明、支那文明、日本文明、一つとしてそうでないものはない。
深く強い宗教の無い所に、大文化が起こった例(ためし)はない。無神論と物質主義は、何を作り得ても文明だけは産み出せない。
◎
薩長藩閥政府の政治家たちによって築かれた明治大正の日本文明なるものは、宗教の基礎の上に立っていないので、文明と称すべきではない文明である。これは何時(いつ)崩れるか知れない、砂の上に建てられた家のような、危険極まる文明である。
永久性を有していない日本今日の文明は、倒壊に瀕(ひん)している、土台を据えずに建てた家である。今になって土台を据えなければならないのである。困難はここにある。いわゆる維新の元老は、自身無宗教の人たちだったので、信仰の基礎の上に新社会を作れなかったのである。
完