この記事に関しては、新聞ではなく、某専門雑誌に掲載されたものです。
今はしてませんが、過去にしていたボランティア経験を書いたものです。
他の新聞投稿もそうなのだけど、今回も、掲載紙の字数制限のため、かなり文章が削除されちゃいました。「もっと違った表現だったのになぁ」と、いつもの事ながら、物足りなさを感じています。まぁ、しょうがないですけどね・・・・^^
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「死なないで」
「死にたいんです」
電話の向こうから聞こえてくる第一声はいつもこの言葉だった。緊張の瞬間である。私と相手とを繋いでいるのは、たった一本の電話回線だけ。
私は自殺を防止するための機関で、電話相談員をしていた。文字通り命を繋ぎとめるのが、私の役割だ。切られてしまってはもう終わり。
相手の発する言葉の一つ一つを決して聞き洩らすことなく、思いを受け止めなければならない。
しかも、緊急度を言葉だけを頼りに測り続けるのだ。
今話しているこの人が、すぐにも実行してしまうかもしれない。
まさに人の命がかかっている
測るための尺度は、マニュアル化されている。
守秘義務があるので具体的には述べられないが、ある質問をしていくことで、話し手の今の状態を推測し、その後の対応を決めていく。
しかし、この質問をすることは、私にとって大変難しく、苦しいことであった。つい尺度を測ることばかりに気をとられ、話の腰を折ってしまったことは、一度や二度ではない。
タイミング如何では、さらに深く傷つけてしまったこともある。
私の印象のみで、決して緊急度を判断してはいけない。自分の感情をうまく表現できない人だっているはずだ。
そのために、一定の尺度が大切であり、必要なのだ。
「もう死にます」
そう一言言い残し、ガシャーンと切られた事もある。そうしたときには心にずっと残り続け、翌朝の新聞記事を目で追ったことも何度となくある。
最終的には、私の心からの思いで接するしかない。
「私が寂しい。だから死なないで」
最後にはそれしか言えない。

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