平成30年度市町村議会議員研修報告書
テーマ 社会保障・社会福祉「2025年問題」をテーマに、高齢者の医療と介護を中心にした3日間の研修
日時 平成30年7月4日(水)〜7月6日(金)(3日間)
場所と主催者 全国市町村国際文化研修所
報告者 松島幹子
まず、平成 30 年台風第 7 号が接近し、その後、気象庁により西日本を中心に降り続いたこの記録的な大雨の名称を「平成30年7月豪雨」と命名された。この豪雨により、西日本を中心に多くの地域で河川の氾濫や浸水害、土砂災害が発生し、死者数が200人を超える甚大な災害となった。茅ヶ崎市を7/4に出発するときにはそのようなことは全く予期していなかった。7/6朝になって、帰宅することが可能かどうか心配になり、鉄道もストップしているようなので
京都駅までタクシーで乗り合わせて行くように受講者で朝食時に相談していたが、所長の素早いご判断により7/6の講義は中止。講師も京都駅から来ることができないとのことだった。また、受講者のために京都駅までの大型バスを2台確保していただき、受講者の約半数が乗車した。その後、京都駅でかなりの時間を待ち、小田原経由でその日の夜に茅ヶ崎まで帰宅することができた。京都駅まで通常ならばそれほど時間がかからないという事であったが時間がかかった。氾濫している川を見ながらの帰宅であった。会場である全国市町村国際文化研修所は広域避難所でもあり、ここにいる限りは安全だということも伝えられ、帰宅が不可と判断した受講者は1日延泊がみとめられたという。しかし、翌日には近隣の避難者が避難してくるため退去しなくてはならず帰宅まで数日間を要した方もおられたようだ。自然災害が多発している中で、主催するときのこのような場合の危機管理は大変重要だと感じたとともに、所長の適格な早いご判断でその日のうちに来たくできたことには大変感謝している。特にあのような状況の中で大型バスを2台も確保できたことは早期の確保、決定をしなくてはできなかっただろうと思う。京都駅までバスを出していただいたことにも感謝を申し上げたい。また、最終日の講演は大変興味があった。特にIWAOモデルについては茅ヶ崎市でも応用できる参考になったと思われるだけに大変残念でもあった。しかし、安全に来たくできた事に感謝申し上げるとともにお亡くなりになった200名を超える方々のご冥福をお祈り申し上げる。
<要旨>
★2025年問題と社会保障政策
「我が国が直面している少子高齢社会の現状、それらに対応した社会保障政策について」 講師 政策研究大学院大学 教授 小野 太一氏
人口、出生数と死亡の推移、日本人口の歴史的推移についてグラフを用いた説明があった。
日本の人口は1872年明治5年から急速に人口増になった。しかし、2010年平成22年から急速に人口減へ転じている。しかし、歴史的に見れば元の人口へ戻っていっているともいえる。
各国の高齢化の推移では日本ほど高齢化率が高い国はない。
ライフサイクルでは1920年は61.5歳➡1961年は73.5歳➡2009年は86.6歳と伸びている。
平均寿命、平均余命も伸びている。
世帯数は増え続け、1世帯当たりの平均人員は減少し続けている。
世帯数 昭和28年17180千世帯➡平成27年 50361千世帯
1世帯当たりの人数は昭和28年5人➡平成27年 2.49人
世帯構造も変化しており、夫婦と子という世帯のモデルの家族は減少し続けている。1980年42.1%➡2040年23.3%の予測
単独家族1980年19.8%➡2040年39.3%の予測
地域によって速度は異なる。地方は既に第二第三段階に入っている。
日本の特殊出生率は他国に比べて最も低い。
生涯未婚率 1985年は男女各3.9%、4.3% ➡2015年 23.4%、14.1%と急速に増加した。今後も微増傾向が予測されている。
名目GDPの変化。経済は回復傾向にあると言われるが1997年のピークを超えてのはごく最近だった。
日本の年金は老齢年金・介護保険・医療保険にほとんどが使われており、家族・子育てには社会保険料がほとんど使われていないという課題がある。
社会保険は2000年代に入り公費負担への依存が高まった。
高齢化が進むのになぜ、年金は医療や介護のように伸びないのか?➡2006年に導入されたマクロ経済スライドにより年金の伸びは賦課方式の下で現役世代の負担が適正なものとなるように、年金額の伸びを抑制するようにされたため。
最後に私見を一言付け加えるなら、「社会保障は最も政治的なものである。そして、社会保障は最も政治的に扱われてはならないものである。」今井一夫「勧告、答申の背景にあるもの」(抜粋)「社会保障制度審議会30年の歩み(1980)」
税・社会保障一体改革・・・医療機関提供者間の協議=日本の病院は歴史的事情により民間病院が中心。そのため民間事業者間の協議が必要。
2回延期されたが2019年10月から消費税は10%に引き上げ。
今後数年は2022年以降に向け現役人口が急速に減少する一方で高齢者数がピークとなる2040年ごろを見据え社会保障給付や負担の姿を幅広く共有することが重要。
年金改革はマクロ経済スライドのフル適用が推進される。
これからの課題はダブルケアー・・・親の介護と子どもの育児
政府は第一次ベビーブーマー(1947年〜1949年生まれ)が
75歳を迎える2025年までにすべての地域での包括ケアシステムか゜確立されることを目指している。
日本老年学会・高齢者に対する定義検討ワーキンググループからの提言概要によると「現在の高齢者については10〜20年前と比べて加齢に伴う身体機能の変化の出現が遅延してきており「若返り」現象がみられている。高齢者の定義は75〜89歳。90歳以上を超高齢者。准高齢者65歳から74歳を提言している。
健康のバロメーターとして握力と歩く速さがある。
ロバート・バトラー「高齢者を社会の弱者や差別の対象としてとらえるのではなく、すべての人が置いてこそますます社会にとって必要な存在としてあり続けること」
医師会・役所が作っているガイドラインACP「事前にケアの方向で計画する文化を作っていこう』
介護保険と地域包括ケアシステム「介護が必要な高齢者を社会全体で支えるしくみとして2000年に施行された介護保険制度について、その変遷と現状について・地域包括ケアシステムについて」
淑徳大学コミュニティ政策学部 学部長・教授 鏡 諭氏
自治事務である。
給付と負担の関係を市町村自らが作れる制度である=市町村の責任。市町村は保険者である。
和光市、武蔵野市、流山市・・・人口10万人前後の自治体はオリジナル策を出した。施策をやりやすい。
総合事業の実施により、利用者のサービス機会の剥奪に繋がることや報酬単価の引き下げ(8%下がっている)に事業者が苦悩する姿や期待されたボランティア等の参入が見込めない等の課題が噴出している。➡自治体が考えていく事が重要である。
自治体が主体的に考え、地域で安心して暮らせることを目標とすべき政策である。厚生省や財務省の給付縮減の意向に引きずられることなく、高齢者が安心できるケアシステムの構築をはからなくてはならない。
財務省等による財政の締め付け・・・2017年社会保障費の自然増は6400億円になった。➡5000億円にとどめる事を要請=1400億円の圧縮。
生活援助の報酬削減(2018年4月〜)介護保険を使った掃除や調理などの生活援助サービスの報酬を引き下げ、介護福祉士やヘルパー以外の人に期待。
介護保険は保険料を払っているので誰にも提供する、受ける権利がある。要介護度認定だけで誰でも受けられる。しかし、経済や家族等の要素で限定性もあり課題がある。
第7期基本指針のポイント・・・
1. 改定率は+0.54%とすることとなった。
2. 通所介護などの各種の給付の適正化を実施することで、介護報酬をマイナス0.5%程度とした。
3. 訪問回数の多い利用者への対応・・・統計的に見て通常よりもかけ離れた回数利用する訪問介護の生活援助中心型サービスについては、利用者の自立支援・重度化防止や地域資源の有効活用等の観点から、市町村が地域ケア会議において検証を行うとともに、必要に応じ、ケアプランの是正を促す仕組みを進めることとなった。また、厚生労働省による検証のためのマニュアルを急速に策定するとともに、地域ケア会議等における検証の実施状況等を定期的に調査し、公表するとされた。
例}生活援助の回数 要介護1の場合 平均9.2回 許容26回 決定したかけ離れた回数 27回・・・しかし、薬を飲ませる=身体介護だが単価が高い。
問題は、どんな権限があったケアプランを是正する事ができるのか?
=市町村はできない。もし、是正して状態が悪くなったら責任問題。訴訟の対象ともなる。
ケアプランの事前届け出の目的は何か・・・市町村には権限がない。権限があるのは、実地指導、監査。
自立支援・重度化防止に資する質の高い介護サービスの実現として見直し
@ 通所介護サービス・・・2時間単位だったのを1時間単位となった。
A 自立支援について負担を小さくする・・・長時間の通所リハビリの基本報酬の見直し
特別養護老人ホームの整備率は・・・人口30万人で100床の特養を作ると保険料は100円上がる。
非営業的な仕事は行政がやるべき仕事である。ハンナ・アーレント・・・とは言ってもどこまでやるかは住民としっかり議論することが大切。どういう支援を自治た酢はしていくのか➡だから、保険料はこれだけ。選択と集中が重要。
介護保険の創設の背景・・・「措置」制度
介護予防から地域包括支援事業への課題・・・給付は保険料を払うことに対する対価であるが、市町村の事業となった時に、権利性のない行政行為となってしまう。ここは慎重な議論を要する。
地域医療の現状と課題「地域で安心して生活していくための医療の確保・医療計画や介護との連携、病院経営や医師確保等、地域での医療の確保に関する課題等について」
東京大学政策ビジョン研究センター 特任教授 尾形 裕也氏
2017年介護保険法改正で介護医療院創設
消費税増税分を医療・介護に充てるとしているがこちらの方がお金がかかる。
政策選択にあたっての視点・・「社会保険」は、「連帯」が記祖であるという原点の重要さ。
病床数の地域差の問題は無視できない。
超長期展望では、医療、介護は重要なポイントになる。未来は過去の延長戦場にはない。
高齢化のピークは2040年。
医療計画の見直し
@ 第5次 2008年 いわゆる4疾病5事業の重視、地域における機能分化と連帯大切の確立
A 第6次 2013年 「4疾病」+精神疾患➡5疾病
在宅医療の重視、認知症と若い人のメンタルヘルスの重視
都道府県の入院受療率が、全国平均の入院受療率と比べて高いか否かは、都道府県で差があり、5倍の差がある。
構想区域ごとにみる必要がある。
今後の介護施設では看取りが大切になるだろう。
介護医療院の基本的性格
@ もはや病院ではない。
A 医療法に言う「医療提供施設」である。
B 介護保険適用施設とする。
他の施設への影響として、老人保健施設の中間施設としての「鈍化」、特養との競合
QOD(Quality of Death)・・・超少子高齢化社会、多死社会ではQOLと共にQODも重要な指標。
ターミナルケア、ペインコントロール(医療的な麻薬の使用料が日本は低く遅れている)
地域における「医師や看護師不足問題」議論の前提として日本は世界一病院や病床数の多い国。アメリカに比べると日本は人口比2.4倍。国土面積比25倍となる。
コンパクトシティは不可避
病院の集約化、医療資源の集約化+システム化
公立病院の経営問題・・・経営主体の問題「地域独立行政法人」の選択肢・・・国立病院はすべて地域独立行政法人・・・事業体としての独立性がなくてはならない。親方日の丸ではダメだ。なぜ独立行政法人にならないのか。
地域医師会との関係・・・地域医療構想は、もともと日医や病院団体等医療提供側からの提案➡評価できる点。
地域医療構想、医療計画等データの活用を
ICT革命、ロボット革命等の影響・・・2018年診療報酬改定ではオンライン診療も
「急性期病院の顧客は、患者とディーラーとしてのかかりつけ医だ。」
認知症の基礎知識と社会参加による予防の可能性 「認知症について正しく理解し、認知症の基礎知識と認知症予防の考え方について社会参加の観点から地域としてどのような取組を進めていけばよいのかについて」
東京都健康長寿医療センター研究所社会参加と地域保健研究チーム 研究員(主任) 鈴木 宏幸氏
認知症高齢者の数は世界で急増している。特に中・低所得国で増加。
認知症の診断基準・・・以前と比べて明確な認知機能の障害がある。認知機能障害が生活の自立を傷害している。
認知症になってしまったらよい環境で過ごせるか否かが大切。
物忘れは本人の努力とかではなくて記憶の神経がダメージを受けている。損傷している。外からは見えない神経の病気。
認知症は年をとれば皆なる。
薬による認知症予防は可能か?➡99.6%が失敗に終わっている。非薬理的予防法がさらに重要視されると思われる。(認知症になってからの薬は存在するが根治薬はない)
認知症の約.35%が9つの危険因子の組み合わせに起因する可能性がある
@ 若年期 教育の少なさ
A 中年期 難聴、高血圧、肥満
B 老年期 喫煙(神経毒が含まれている)、うつ、身体不活動、社会的孤立、糖尿病
神経は復活する(神経の再生)・・脳を使えば使うほど神経網が充実してくる
認知機能の維持には新しい学習が効果的・・・カメラ、パソコンのみのグループが一番記憶検査の得点が高かった。
社会活動・社会的つながりは認知機能低下を抑制する。
絵本の読み聞かせプログラムの展開を豊島区、大田区は事業としてやり始めた。
平成30年7月6日(金)「街全体で人々を看守る街づくり」
京都大学経営管理大学院 特定教授
高齢社会街づくり研究所株式会社 顧問 岩尾 聡士氏
地域全体で弱者を看守り、医療モデルから生活モデルへの転換を目標に、名古屋市でモデル研究を進め、全国に展開する新しい挑戦(IWAOモデル)について講義をお聞きする予定だったが台風のため中止となった。
<研修を終えて>
医療・介護、社会保障全体の国の動向、予算などについて総合的、集中的に学ぶことができた。少子高齢化が急速に進み、国は制度を変えざるを得ず、制度改正が進んでいる。このような状況の中で基礎自治体として安心して最後まで住み続けることができる、満足した看取りができる、満足した最期を迎えることができるためにはどのように制度を整えればよいか、目まぐるしく変わる国の制度に翻弄されることがなく長期的見通しを持って施策展開ができるようすることが基礎自治体としての務めであると感じた。

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