『日本の悲劇』
監督: 亀井文夫 1908〜1987
■この映画は、アメリカ当局によって上映禁止・没収となった。
アメリカの望むとおり、戦時中の日本の政策を批判した映画に仕上がっているのに、なぜ禁止されたのだろうか?
主な理由は2つある。すなわち、この映画は――
●1.冒頭から盛んに、「財閥」と軍部との結託を批判し、資本主義勢力の危険さを強調している。そして、戦争に反対したのは共産党であったということが主張される。
つまり、ファシズム・軍国主義は資本主義の産物であり、共産主義こそが正義であるという図式のメッセージが一貫して伝えられている。
こういった宣伝は、ソ連の共産主義勢力に対抗し始めている資本主義大国アメリカにとって、たいへん都合が悪い。日本の共産主義勢力が強くなってしまうと、日本占領政策が意味をなさなくなるのである。
●2.天皇を何度も直接に批判している。戦争中の日本軍の残虐行為が、直接に天皇の命令によって行なわれたということや、東京裁判では天皇も戦犯として裁かれるべきだといったメッセージが仄めかされている。これは、天皇を使って日本統治をスムーズに進めようとしたアメリカ占領軍にとって都合が悪い。最高司令官マッカーサーは、東京裁判に対して、天皇を出廷させてはならないと強く要望しており、天皇の戦争責任を追及したい裁判長ウェッブ(オーストラリア人)との間にトラブルが生じていた。
そんな中で、この映画における天皇を批判する言説は、マッカーサー司令部にとって危険だったのである。
1.を書いた人はいませんでしたが、2.は、5人の学生が書いていました。
●前回に観た『汝の敵、日本を知れ』では、アメリカ側も日本の財閥と天皇を敵視していた。しかし、戦争が終わって、アメリカの敵が日本ではなくむしろ共産主義ということになると、天皇を通じて日本をコントロールし、資本主義陣営の強力な同盟国へと日本を育て上げることがアメリカにとって急務となった。
終戦という、劇的な世界情勢の変化により、「財閥」と「天皇」は、アメリカにとっては真の敵と戦うための便利な道具となっていたのである。
(なお、1950年に朝鮮戦争が始まって共産主義の脅威がいよいよ高まると、マッカーサーは、吉田茂首相に警察予備隊を作らせ(自衛隊の前身)、完全に武装解除したはずの日本に対し、日本軍の再建を許すどころか、要求したのである。)

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