自作小説目次集全投稿作品目次一覧

 

固定板【当ブログの更新情報はこちら】  雑談

日記用のブログを新規開設しました。リンク集の方に張ってありますのでぜひお立ち寄りを。「文所書雑用の日記」というやつです。

この記事はお知らせ板です。このブログ、または日記用ブログの状況などについて書いていきます。

ご意見、ご要望、ご感想などありましたらコメント欄(PCの場合、それぞえの記事の一番下のページ、スマホの場合、同じくそれぞれの記事の「こんな記事も読まれています」の下にコメント記入フォームがあります)

ツイッター @jomasan66

「オルウェスノ風ハ哀愁ヲ運ブ」完結しました→再改編作業を行う予定です。

新連載は「Fiction of nonfiction」です。
2017年6月15日「1日1人創作人物伝」21〜31を公開しました。
2019年2月10日 「先代」水無月十六の世界線年表を作りました。
2019年5月13日 「Kraken」公開しました。

自作小説目次一覧

「先代」水無月十六の世界線シリーズ →年表時系列


連載中 Fiction of Nonfiction⇒最新12話


神託⇒完結


1日1人創作人物伝まとめ⇒10/100人公開中


小説は↓から始まります。
以上
1

2020/6/30  23:11

クラーケン添削版  クラーケン

海は穏やかに波打っている、風は強くもなく弱くもなく、航海には何の影響も与えず、ただただ、帆船を導くだけだった。



 船長は多くの船員とともに、荷物を待つ港まで、貿易船の船団を率いていた。



「船長、あと数キロで港です。」



「なぜわかる?」



 口の周りにひげを生やした船長は、そう言った若い船員に尋ねた。



「勘です。」



 若い船員は自信に満ちた態度で答えた。船長は苦笑した。



「若いな」



そう言って手に持っていた酒を飲みほした。



あたりは平穏、聞こえるのは船員たちの話し声と、カモメの鳴き声、船体にあたってはじ
ける波の音だけだった。



「お前、家族は?」



船長はしゃがれた声でさっきの若い船員に尋ねた。



「あぁ、はい、この航海が終わったら結婚する予定です。」



船長はその船員が照れながら答えたところを少し可笑しく思った。



 船長にも街に残してきた家族がいた。息子と娘、そして妻だった。彼もまた、若い船員と同じく、家族に会うのが楽しみだった(若い船員の場合は恋人だが)



「船長はご結婚なされているのですね。」



「ん?あぁ。」



船長は一瞬、彼がなぜそのことがわかったのか不思議だったが、その謎はすぐに解決した。船長は結婚指輪をつけていた。



「いいですね、今度船長の家族に会いに行きたいです。」



↓この描写、なぜ答えられなかったのかがその後の物語にあまり関係してこないので、若い船員の「悟ったのか」などの表現が別描写にする必要があると思う。


船長が答える前に呼ばれて駆け出して行ってしまうか、その後に船長が言葉につまった理由に関わる展開が必要と思われる。

船長はその船員の言葉には答えられなかった。船員はそれを悟ったのか、甲板の仲間のところへ戻って行った。



 船長は再び海のほうを見た。周りには仲間の数隻の貿易船が帆を張っていた→「た」の連続。「る」など。



その帆が海上にはためいている姿は、船長のお気に入りの風景だった。この景色を見ながら酒を飲む。



 ほかの船の乗組員だけでなく、この船の船員たちは、長年共に船乗りをしてきた仲間達だった。船長にとっては兄弟同然である。引退したときには、彼らを呼んで、パーティーを開いてみたいと思っていた。



その時ふと、あの若い船員が自分の家族に会いたいと言っていたことを思い出して、船長は苦笑した。手に持っていた酒を飲もうとしたが中は空だった。




 船長はため息をついて、船縁(ふなべり)に手をかけ、あたりを見回した。なにも起こりそうにない。船長は港に着いたらしばらくは味わえそうにない潮の香りを、目を閉じて思い切り吸い込んでみた。清々しい気分だった。




息を吐いて、そして目を開けた。




すると突然、並行して進んでいた貿易船ケベック号の船体が折れ曲がり、水しぶきをあげて海中に沈んだ。




船長は初め、何が起こったのかを理解できなかった。あまりに一瞬で、あまりに突然だった。船長が茫然と仲間達が沈んだ海を見ていると、突然、船員たちの悲鳴と、何かを突き破る音が船長の耳を打った。




「何事だ!」




船長が振り返った時は、丁度あの若い船員が、甲板を下から突き破ってきた巨大な何かに、吹き飛ばされた瞬間だった。
 






 「で?どうなったんです?」



数年後の同じ海の上で、船員が船長にそう訊いた。




「親父の船の船員は、ことごとく海に沈んだ。ほかの貿易船も、親父の船も、皆その化け物にやられた。」



船長は、ぼんやりと船の床を見つめ、親父譲りのしゃがれ声で話した。それはまるで、夢で見てきたことを語っているようだった。



「で、その敵討ちを我々が行うのでしょう?」


船員はいかにもやる気があるぞというような風をしてみせながら
話した。船長はその姿が滑稽だったので、吹き出してしまった。



「笑わないで下さいよ、船長。」



「悪かった、ボビー。」



そうその船員をなだめながらクラーケン討伐船団船長、トミー・ウィルキンソンは、立ち上がって、彼の船を取り囲むようにして進む船団を眺めた。



彼が率いる船団は、貿易船を改造したものと、軍艦として造られた帆船をかき集めた船団である。



乗組員は、下は二十代から上は五十代までの、勇猛果敢な男たちが乗り込んでいた。その中には、魚屋や、新聞配達といった一般職のものから、根っからの船乗りの漁師、そして軍人、それから職を持っていない者もいた。



彼らは、国の命令で、この海に出没するクラーケンを討伐しに行くところなのだ。彼らにはそれぞれ、家族がいる者もいたが←それぞれが頭にあるので不要かと。いない者もいた。家族がいるものの中には、クラーケンに身内を殺されたものもいた。彼らは皆、復讐心に燃えていた。




 船長の父は、クラーケンに襲われたが奇跡的に帰還、その後、一切海には出なくなった。理由はトミーには話さなかったが、彼は察していた。なぜなら、父が死ぬ間際にベッドの上で、



「あいつが生きていたら、お前に会わせてやりたかった。奴はまだ、若かったのに。」



と、涙声でトミーに言ったからだ。トミーは、父の為、クラーケンに殺されたほかの船乗りたちの為に、この大船団を率いていた。


「船長、進路は間違いないか?」



「?」



トミーは不意を突かれて戸惑ったが、すぐに話しかけてきた男のほうに向きなおって答え
た。



「はい、間違いないです。奴は必ず出てきます。」



「よろしい。」



トミーに話しかけてきた男はそう言って、船内へ入って行った。彼は国から派遣されてきた、軍人のライリー・スレイマン中将である。



トミーは彼をあまり好んではいなかった。その話し方から髪型まで、すべてが嫌味に思えた。彼は、コネだけで中将になった男だという噂がある。到底まともにクラーケンと戦えるはずがないと、トミーは思っていた。



「相変わらず、うるさいやつですね。」



そばにしゃがんでいた乗組員のボビー・マクシミリアンが、立ち上がって、細い眼をさらに細めながら言った。



ボビーは曽祖父から代々漁師である家庭に育った、色黒の海の男だった。トミーは彼を頼りにしていたし、他の船員たちもそうだった。



「でも、大丈夫なのですか?」



「何が?」



ボビーが時々心配症になることを、トミーは知っていた。



「この船団は、三十隻の内、八隻は軍艦ですが、残りはすべて貿易船を改造しただけじゃないですか。こんなボロ帆船団で、何十隻もの軍艦、貿易船、海賊船を沈めてきたあの化け物に勝てるんですか?」



トミーは一度甲板を靴で勢いよく踏みつけた。木の板が乾いた音を響かせた。トミーはこれを、不安になっている船員の前でよくやって見せる。これはトミー流の励ましなのだ。



「ボビー、よく考えてみろ、確かに軍艦は少ない。だがな、その少ない軍艦は、幾多の戦争を切り抜けてきた歴戦の勇士たちだ。


それに、おれたちの乗っている貿易船はボロじゃない、確かに古いが、それだけ長い間使えるということは、それだけ強いということじゃぁないか。



大砲も積んでいるし、国から預かった対クラーケン用の新兵器もある。それに船員たちは、どれも勇者たちだ。皆いずれは英雄になる男たちだ。なにも心配はいらない。わかったか?」



ボビーは黙ってうなずいていた。



「ここであきらめたら、何のために港で帆をはり、家族に別れを告げてきた。ここで引き返せば意味はない、必ず奴はしとめる。」



トミーはそう言って、船首のほうへ歩いて行った。船首部には、トミーが国から預かってきた、新兵器が積んであった。



「甲板長、新兵器の調子は?」



「あぁどうも船長! 『グングニル』は万全ですぜ。」



「ん? グングニル?」



「あぁ、すみません、あっしが勝手につけました。」



甲板長は笑みを浮かべていた。



この陽気な甲板長は、役職名通り、甲板にあるすべての物の管理を任されている。彼は商人で、妻子がいる。



「グングニル、神話上の武器の名だな。確か・・・←3点リーダー2連に直す。書式の問題。」



「へい、北欧神話最高神のオーディンの所有物で、投げると必ず相手に突き刺さるってやつでさぁ。」



「そうなってほしいという願いからつけたのか?」



「まぁ、そんなところですが、ただの自分の趣味ですよ。」



甲板長は声をあげて笑った。トミーも口元を緩めた。



「だがあの偉い中将殿は、『パシフィックランス』と呼んでいるぞ。」



「あぁ、あの臆病者のつけた名前なんて、俺は認めませんぜ。」



甲板長は顔をしかめてそう言った。



「臆病者ねぇ。」



トミーは船室への入口のほうを見た。丁度ライリー中将が出てきたところだった。トミーは中将を見ながら、彼について考えていた。頭の中に、『臆病者』という言葉が、こびりついていた。





 港を出港してから五日ほどたった。船員たちに疲れが出始めていた。船員たちの間に、(本当にクラーケンは現れるのだろうか、もしかするとこのまま何もできずに国へ帰るのかもしれない。)といった不安が広がっていた。ボビーもまた不安になっている船員の一人だった。



「船長、本当にクラーケンは出るんですか? 船員たちも見ての通りですし、食糧もほとんどなくなってきました。このままだと、クラーケンと戦っても、一瞬でやられちまいますよ。」



トミーは甲板で戦意を喪失している船員たちをしばらく見まわしていたが、靴で勢いよく甲板を踏みつけると、←展開上問題ないと思われるが、無い方がいいと思われる。



この動作は前述登場時は、ボビー個人に対して行われていたものであり、地の文でも「不安になっている船員の前で」と個人に対してよくやっている動作として紹介している。



また、甲板を靴で踏みつけても全体に聞こえるほどの音にはならないと思われるため、ただ無意味にトミーが甲板を踏みつけただけのように移ってしまうのではないだろうか。



描写するなら、ひとまず目の前のボビーを叱咤するための動作として記述し、操舵輪へ駆け出すようにすると自然では無いだろうか。
操舵輪の所へと上がっていき、声を張り上げた。




「みんなよく聞け、この5日間、クラーケンは一度も出なかった。だがしかし、ここで我々は諦めてはならんのだ、ここで諦めたら、今後さらに多くの船が沈むだろう。


そしてさらに多くの命が失われることになる! そんなことは絶対にあってはならない。ここで我々がそれを食い止めるのだ!」



船員たちから歓声が上がった。←歓声までもう少し描写が欲しい。船員たちの士気がさがっている描写が少ないため、演説の効果がそこまで感じられない。演説の前後と間に船員の表情や動作の描写を挟むなど、もうひと工夫欲しいところ。



「了解であります船長!」



「やってやりましょうぜ。」



「おれたちは諦めませんよ!」



船員たちに活気が戻った。トミーはその光景を満足そうに眺めていた。



「いやいや、素晴らしい演説だったよ。」



船室からライリー中将が出てきて言った。トミーはまた、彼について考えていた。←この動動作意図?が不明瞭。何を考えていて、何のために考えているのかが特になさそうなので、宙ぶらりんな印象が残る。無くすか、もう少し具体化する。



「クラーケンは今日こそ現れると私も踏んでいる。もし遭遇したなら、全力を尽くすように。」



そう言うと彼は、船の下の階に下りて行こうとした。



「どこへ行くのです? 中将閣下。」



トミーは語調に軽蔑を込めた。



「私は下部の砲撃隊を指揮する。何か不満でも?」



トミーはしばらく中将を見下ろしていたが、



「いえ、ありません。」



と短く言って、甲板へ下りた。



「よろしい、クラーケンを見つけたら即刻知らせるように。」



そう言って、ライリー中将は船室へと入って行った。←この時点でトミーは甲板へ降りてしまっているので、下の階に降りようとしている中将とのやりとりが不自然。


ここまでトミーの見たものを三人称一元で書いていたのにここだけ急に神の視点になっている。




トミーは、船室に入っていく中将の背中を、この戦いの行く先を考えながら見つめていた。←前述と同じ理屈で船の構造が不明。異次元視点のようになってしまっている。





 その日の正午過ぎだった。それまで快晴だった空は、突然雲が目立ち始めた。



「いやな予感がしますぜ、船長。」



ボビーがそう言った。



「考えるな。」



トミーでさえ、そう言うのが精いっぱいだった。嫌な予感がしていたのだ。風は強くなり、張っている帆がはためく音が大きく響いていた。波も高くなり、それに揺られて船も
きしんだ。



「甲板長、船員に、メインマスト以外の帆を降ろさせろ。嵐が来るかもしれないぞ。」



そうトミーが甲板長に告げて、船員たちがマストへ登り始めた時だった。



「方位西! 距離約十キロ先!←十キロ先を捉えられる望遠鏡屋目視があるのか、もしくは十キロ先でも視認可能な大きさの魚影は実サイズがいくらなのか。特に変更梨でもかまわないが、実数を出すなら要検討かと。 



巨大な影が接近してきます!」


メインマストの一番上に乗っている観測手が下に向かって叫んだ。トミー達は急いで船縁から身を乗り出した。



その黒い巨大な影は、望遠鏡を使わずとも、その存在を認識できるほど←前述に同じ。大きさを検討。の巨大さだった。トミーはほかの船の方を見た。彼らももう気が付いているらしかった。



「甲板長! 手旗信号『セメロ(攻めろ)』用意。」



「分かりやした! 『セメロ』用意!」



甲板長が上に向かって叫ぶと、観測手と同じところにいた、海軍の兵士が旗を両手に握って、他の船に信号を送るのが見えた。トミーは次の指示を出した。



「各員戦闘準備! 弾薬を運び、砲台を準備しろ! グングニルも用意しろ。各自携帯できる武器は持って置け。」



トミーは甲板長が自分に向かって白い歯を見せたのを見た。新兵器のことをグングニルと呼んだからであろう。メインマストの上では、手旗信号が送り続けられていた。



「セ、 メ、 ロ、  セ、 メ、 ロ、」



トミーは声を遠くまで届かせることができる機械があればどれほど楽なことかとその様子を見ながら思った。そこでふと、ライリー中将のことを思い出した。



「伝令! ライリー中将にクラーケンのことを知らせろ。急げ!」



伝令は飛ぶように船室の方へ走って行った。甲板では船員たちが忙しそうに動いていた。海の方を見ると、巨大な影はもうすぐそこまで来ていた。



トミーは船員たちを配置につかせ、待機させた。風は少し弱まっていた。巨大な影は刻一刻と船団に迫ってきていた←「た」の連続。やや単調なので工夫が必要かも。



トミーは船員が焦って砲撃しないように、甲板の方を向いて指示を出した。



「各員、合図があるまでは動くな。手旗信号『タイキ』だ。」



そう言い終わらないうちにトミーは視線を海に戻した。すると、あの影は消えていた。



「警戒怠るな!」



あたりを静寂が包んだ。波の音以外は何も聞こえない。



 数分が過ぎた、まだ何も起こらない。船員たちは武器を片手に待機している。そばで姿勢を低くしていたボビーが口を開いた。



「船長・・・・・←三点リーダー2つに。


その瞬間、水しぶきが高く上がり、右舷の方から、巨大な吸盤をもった足が十本、水上に現れた。



「巨大イカだぁ。」
「大王イカだぁ。」
「クラーケンだぁ。」
「タコだぁ。」←句点すべて感嘆符に



トミーはこの緊迫した状況で、船員たちの叫びから、彼らの教養の有無が見て取れることに気がついて苦笑した。



「船長! 何を笑っているんですか!」



トミーはボビーの声で我に返った。



「まだ奴は攻撃してこない、合図するまで待て!」



そう言いながらトミーは、クラーケンが親父を襲った時よりおとなしいのを不思議がっていた。クラーケンはゆっくりと足を空へと延ばしていた。



すべての船の乗組員たちが、その様子をかたずをのんで見守っていた。しばらく経ち、クラーケンの動きが止まった。その隙を見逃さず、トミーは叫んだ。



「各員、攻撃始め!」




「放てぇー!」



甲板長の号令とともに、右舷に据え付けられた砲台が一斉に火を噴いた。砲台から打ち出された鉛玉は、クラーケンの足へと吸い込まれていった。その砲撃を合図にして、他の船たちもそれぞれ行動を起こし始めた。



クラーケンの足は、一度ひるんだが、すぐに甲板めがけて巨大な足を振りおろしてきた。船縁の柵が砕け、船員が吹き飛んだ。



「撃て、撃つんだ。」



トミーは銃をクラーケンの方へ撃ちながら叫んだ。船はクラーケンの攻撃を避けるために海の上を走りまわった。



「他の船と連携を取れよ、操舵手。」



トミーはそう言って船首の方へと向かった。その間にも、クラーケンは容赦なく攻撃を仕掛けてくる。トミーの船のみならず、クラーケンはほかの船にも攻撃を加えていた。



トミーが船首の方へ向かっていると、クラーケンの足が水平に飛んできた。それは、トミーの横で盛んに砲撃を行っていた砲台ごと船員たちを吹き飛ばした。トミーはとっさに身を伏せて回避した。




あたりは船員たちの悲鳴と怒号で包まれていた。いたるところで水しぶきが上がり、木片が飛び、船員も飛んだ。



トミーが身を起こすと、突然大きな爆発音がした。海の方を見ると、軍艦のフランシス号が、火柱を上げて海中に沈むところだった。クラーケンに弾薬室を貫かれたのだ。



トミーは全身に戦慄が走るのを感じた。そして反射的に叫んでいた。




「弾薬室の弾薬をすべて砲台のそばへ運べ! 急げ!」



そう言い終わると、飛ぶように船首へと向かった。



「射手! グングニルは撃てるか?」



「いけます。後は命令だけです。」



その新兵器は銛(もり)を巨大化させたようなもので、レバーを引くときの反動で発射する。



「よし、クラーケンの本体を狙え、合図したら撃て。」



「了解であります。」



トミーは射手の返事を聞いてから海を見下ろした。クラーケンの足が振り下ろされ、水しぶきが襲いかかってきた。水しぶきが収まって、トミーが目を開けると、船が二、三隻沈められ、船員たちが海に飛び込むのをみた。



砲撃はまだ続けられている。その時、船の下を、巨大な影が横切ろうとするのをトミーは見た。



「グングニル放て!」



射手がレバーを引き、巨大な銛が海中へと飛び出した。グングニルが海中へ入った直後、海面が赤く染まった。命中したのだ。



「やったか?」



トミーがそういった瞬間、そばで悲鳴が聞こえた。振り返ると、グングニルの射手がクラーケンの足に絡みつかれ、振り回されたあげく、放り投げられていた。



「ちっ。」



トミーは舌打ちして、グングニルを装填(そうてん)した。船には三発のグングニルが積んであった。



トミーは狙いをつけ、クラーケンの本体めがけてそれを放った。グングニルは勢いよく飛び出し、巨大な影へ吸い込まれていき、またも海が赤く染まった。その瞬間、クラーケンが苦痛のあまり、その巨大な足をところかまわず振り回し始めた。



船員が次々と吹き飛ばされ、悲鳴がいっそう多くなった。その足の一本が、メインマストを直撃して、マストが根元から折れた。トミーはその瞬間、観測手と海軍の兵士が、マストのてっぺんで、信じられないというような顔をしているのを見た。



それだけだった。マストはそのまま彼らと共に海中へ沈んでいった。



「くそっ!」



トミーが最後のグングニルを装填している時、船員たちが大騒ぎをし始めた。見てみると、それまで振り回されていただけのクラーケンの足が、船員たちを捕まえて放り投げたり、叩きつけたりしていた。



船員の一人がマストに叩きつけられ、甲板に倒れこむのをトミーは見た←クラーケンの足のサイズ感がこの前後の描写含めて微妙。船を一撃で破壊したり、船員を起用に絡め取る足が同じサイズなのは想定しにくいため、描写でなんとかできるならしたいところだが、あえて不明瞭なまま進むも在りか今の時点でも迷う。



自然と怒りが込み上げてきた。グングニルの装填を急いだが、焦りと水しぶきのせいで思うようにいかなかった。その間に、甲板長がクラーケンに連れ去られた。甲板長は必死にサーベルをクラーケンの足に突き刺していたが、効果はないようだった。



そしてそのまま、船体に叩きつけられ、動かなくなった。トミーは自分の気持ちが怒りから悲しみへと変わっていくのを感じていた。船員たちが次々に死んでいく。トミーはいつの間にか手を止めてしまっていた。




その時、何かを突き破る音がしてトミーは我に返った。船縁から身を乗り出すと、それはクラーケンが下部の砲台があるところをひたすら突き刺している音だった。木片が飛び散り、それと共に下部にいた軍人達が海に落ちていた。



トミーはふとライリー中将のことが気がかりになった。丁度ボビーがそばにいたので、見てくるように言った。するとボビーが叫んだ。




「船長! あれ!」




ボビーが指さす方を見ると、貿易船コロンブス号の船体が押し上げられ、ひっくり返っていた。そしてその下から、クラーケンの本体が姿を現した。二本のグングニルが頭部に突き刺さり、巨大な目玉をギョロつかせていた。



ボビーは飛ぶように下部の方へと向かった。逃げ出したかったのだろう。トミーもそうだったが、そういうわけにはいかなかった。




トミーが茫然としていると、進出してきた軍艦クレーシア号の砲台がクラーケンめがけて一斉に砲撃を開始した。軍艦の砲台の数は、貿易船を改造したもののそれを大きく上回っている。しかし、その集中砲火はクラーケンの本体の表面を少し焼いただけだった。



砲撃が止むとクラーケンは、体を大きくのけぞらせ、鋭い歯を何本も備えた、言うなれば針山のような口を大きく開き、クレーシア号を飲み込んでいった。それはおぞましい光景だった。木造の帆船が、一瞬にして文字通り海の藻屑となった。



トミーは恐怖感に襲われ、グングニルの装填を急いだ。そうしていると、船室からライリー中将とボビーが走ってきた。




「船長、下部の砲台は全滅だ。船員たちには銃弾を撃てるだけ撃って、船から飛び降りるように言っておいた。この船はもう駄目だ。早くとどめを刺そう。」



そう息を切らせながらライリー中将が言った。その間にも、クラーケンは足を振り回し、船を破壊していった。



「分かりました。ライリー中将、私が撃ちます。グングニルの装填願います。」



「パシフィックランスだ!」



そう言いながらライリー中将は、手際良くグングニルを装填した。水しぶきが二人を襲う。



「よし、装填完了した!」



「本体を狙います!」



トミーはクラーケンの頭部に狙いをつけた。ボビーが残った砲台を指揮している。



「撃てー!」



ライリー船長の号令はトミーの思い通りのタイミングだった。レバーを引き、グングニルを発射した。それはまっすぐクラーケンの本体めがけて直進し、貫通した。クラーケンの動きが止まった。



「今度こそやった!」



トミーがそう叫んだ瞬間、クラーケンは最後の力を振り絞り、トミーたちの方めがけて口を開いた。



(やられる)



トミーがそう感じた時だった。



「船長逃げろぉー!」



銃声と共にライリー中将の叫び声が聞こえた。トミーはいつの間にか船から飛び降りていた。落ちる瞬間に見たのは、クラーケンの地獄の門のような口と、それに向かって勇敢に銃を撃ちまくる←「まくる」だとここまでの文体との語調に違和感があるので、表現を工夫する。


ライリー中将の背中だった。



トミーは海に落ちると同時に、大きな音を立てて、トミーたちの船、サントメール号がクラーケンに飲み込まれたのを聞いた。トミーは気を失った。





 何時間経っただろうか、トミーはボビーの呼ぶ声で目を覚ました。



「大丈夫ですか船長。」



ボビーが心配そうな顔をしていた。トミーは甲板を踏みつけようとしたが、足は海中を蹴っただけだった。



トミーとほかの生き残った船員たちは、船の残骸の木片にしがみついて漂っていた。その多くは、ライリー中将の指揮していた下部の乗組員だった。



トミーは中将を探したが、その姿は見つけることができなかった。



「船長、どうしました?」



ボビーの方を見ると、疲れきった顔をしていた。トミーはふと笑ってから、ボビーに尋ねた。



「クラーケンは?」



それを聞くとボビーの疲労がにじみでていた表情が明るくなり、



「やりましたよ船長、親父さんの敵を討ったんです。」



と、自分のことのように嬉しそうに答えた。トミーはそのことに関しては何も言わなかった。それよりも、あたりを漂っている船員たち、船の残骸、クラーケンの血で染まった海面が目に付いた。多くの戦士がここで死んだ。



「船長、本当に大丈夫ですか?」



ボビーのその言葉を聞いて、トミーは我に返った。



その時、一人の軍人が、木片につかまりながら片手で顔を覆って泣いているのが見えた。トミーの心も、その軍人のように悲しみの方が喜びよりも大きかった。おそらく他の船員たちもそうであろうと思った。



ふと、ライリー中将の最後の姿を思い出し、ボビーに言った。



「・・・←三点リーダー2つ。なかったぞ。」



「なんです?」



疲れと悲しみで、声が自然と小さくなるのがわかった。




「ライリー中将は、臆病者じゃなかったぞ。」



そう呟くように言うのがやっとだった。ボビーは黙っていた。





しばらくすると、そばに生き残った船が集まってきた。船はすぐに船員たちの救助を開始した。トミーは再びあたりを見回して、ライリー中将を探してみた。しかしライリー中将はおらず、あったのは船の残骸と、赤い海だけだった。



そこで思い出したのは、とどめを刺した時のクラーケンの目だった。苦痛と憎しみがこもったその目は、トミーに罪悪感を抱かせていた。



「船長、ロープにつかまってください。」



ボビーの声で前を向くと、貿易船のラット号が接近してきていた。その船も、メインマストを折られていた。かろうじて残ったマストの上で、海軍の兵士が旗を振るのが見えた。



「ア、ツ、マ、レ、 ア、ツ、マ、レ、」



トミーはしばらくその手旗信号を、物思いにふけりながら、眩しそうに眺めていた。




  
海は穏やかに波打っている。風は強くもなく弱くもなく、航海には何の影響も与えず、ただただ、帆船を導くだけだった。



トミーは、多くの船員たちと共に、貿易船ライリー・スレイマン号で、積み荷を運んでいた。




あの戦いから十年がたち、トミーは、自分の貿易会社をもっていた。




戦いから帰った後、トミーは生き残った船員たちを集め、死んでいった者たちに対するセレモニーのようなものを開いた。セレモニーには、多くの船員の家族や友人たちが来た。



トミーは悲しみを表に出さないように明るく振舞おうした。しかし、そうすればするほど、トミーは自分が悲しみにくれて行くのを感じ、人目もはばからず涙を流した。




トミーはあの時の戦いを懐かしみながら、酒を飲んだ。ボビー達が手際よく作業を進めている。




 トミーはふと海の方を見た。すると、巨大な黒い影が船のそばを通り過ぎようとしていた。



それは間違いなくあのクラーケンの影だった。他の船員たちは皆なぜか気が付いていなかった。トミーは一瞬自分が幻覚を見ているのかと思ったが、それは明らかに現実だった。


トミーは戦慄が走るのを感じた。あの時の悪夢がよみがえってきた。←海の方を見てから景の出現までが早すぎる。冒頭の描写を引用するなどして平凡な波間の描写などが必要かと。




しかしその影は、船の下を通り抜け、水平線の彼方へと消えていった。




水平線は夕日で赤く染まり、カモメたちが鳴いていた。船体に打ち付けられる波の音が、船員たちの声と混じってあたりに響いていた。トミーはあの影の主が、自分に何かを伝えたかったのかもしれないと思った。



しかしそれは、自分に対する復讐心を表したかったのか、それとも何の意味もなくただ通り過ぎただけなのかはトミーにはわからなかった。




トミーは巨大な影が消えていった水平線の彼方を、船縁に手をかけ、いつまでも眺めていた。

0

2019/5/12  23:48

「Kraken」目次  目次

第1話/第2話/第3話/第4話/第5話/第6話/第7話/最終話
0

2019/5/12  23:45

Kraken 最終話  

しばらくすると、救助船団が到着した。


討伐船団の後方に待機させ、戦闘がやめば移動してくる手はずだった。トミーの船を含めた討伐
船団は全滅した。


命令とはいえ、後方で見ていることしかできなかった支援船団のことを考えるとむなしくなる。


 すぐに船員たちの救助を開始された。トミーは再びあたりを見回してみて、伯爵を探したが、姿は見えず、かえって戦闘の激しさを物語る残骸が目についただけだった。



海面はクラーケンの血と、船員たちの血で覆われていた。


 トミーが考えていたのは、最後のグングニルが命中した時のクラーケンの目だった。苦痛と憎しみと、怒りと悲しみとがこもっていたようなその目は、トミーの脳裏に焼き付いていた。
仲間たちの仇はうった。だがそれで十分ではないような何かが、トミーの中で渦巻いていた。



「船長、ロープにつかまってください。」


ボビーの声に振り向くと、救助船がロープをたらしていた。マストの上に、信号旗がはためいている。


「集まれ。救助する」


トミーはしばらくその手旗信号を、物思いにふけりながら、眩しそうに目を細めて眺めていた。




海は穏やかに波打っている。風は強くもなく弱くもなく、ただ帆船たちを導く。


 トミーは多くの船員たちとともに、貿易船ライリー・スレイマン号を操り、積み荷を運んでいた。



あの戦いから五年がたち、トミーは再び民間貿易会社として働いていた。



 戦いから帰った後、トミーたちは英雄として迎えられたが、トミーは複雑な心境だった。生き残った自分たちは、クラーケンを討ち取った自分たちは英雄なのだろうか。


 トミーは帰還後、傷の手当てを受けるために入院し一か月後に退院した。


 その後、生き残った船員たちを呼び集め、死んだ者たちに対する追悼式のようなものを開いた。追悼式には多くの船員の家族や友人たちが集まった。


 トミーは悲しみを表に出さないように明るくふるまおうとしたが、そうすればするほど自分が悲しみに暮れていくのを感じ、目の前で死んでいった者たちや、最後に見た伯爵の姿が思い出され、人目もはばからず涙をながした。



トミーたちの船は、いつの間にかあのクラーケンとの死闘が繰り広げられた海域あたりを通過しようとしていた。トミーたちがクラーケンを討伐してから、この海域は安全が確保され、貿易船の通常輸送ルートとなっていた。



 トミーはあの戦いを懐かしみ、また、悲しみながら手にした酒を飲んだ。甲板では甲板長となったボビーが手際よく作業を進めている。



「おい、そっちの荷物はすぐに出せるように船縁の近くに置いておけ。」
「了解です。甲板長。」


 トミーは彼らの仕事の様子をちらと見てから、海の方に視線をうつした。


すると、見覚えのある黒い影が、


水平線の近くに漂っているように見えた。


トミーは錯覚かと思い、目を凝らしてみたが、それは錯覚ではなかった。


震える手で望遠鏡を取りだし、覗く。


見覚えのある、黒い巨大な影。


それは間違いなく、あのクラーケンの影だった。


他の船員たちは誰一人、メインマストの上にいるはず観測手でさえ気が付いていなかった。トミーは戦慄した。

すぐに伝えるべきだったが、今の船は貿易船である。


海賊対策の武器は積んでいても、戦闘能力は皆無に等しかった。


 トミーは慎重に物事を運ぶべきだと考えた。まずは甲板長のボビーに知らせるべきだ。



 そう思って、ボビーにそっと声をかけようとした。しかし、海を再び見たとき、それを止めた。



 影はゆっくりと、何事もなかったかのように、水平線のかなたへ姿を消していくところだった。



 水平線は夕日で赤く染まり、カモメたちが鳴いていた。


船体にうちつける波の音が、船員たちの声とまじりあってにぎやかに響く。



 トミーはふと、あの影の主が、自分に何かを伝えたかったのではないかと考えた。


それは、トミーに対する復讐心なのか、それとも別の何かなのかはトミーには分からなかったが、トミーにだけ見えていたのだとすれば何か意味があるのかもしれない。



我ながら奇妙な考えだと、トミーは苦笑する。


酒を飲もうとしたが、いつの間にか空になっていた。



 海は平穏。船員たちは楽しそうに会話をしている。


トミーは巨大な影が消えていった水平線のかなたを、船縁に手をかけ、いつまでも眺めていた。



0

2019/5/12  23:40

Kraken 第7話  

伯爵が言葉を発した。


「船長、把握していると思うが下部砲台は全滅した。生き残った者は脱出させよう。この船はもう駄目だ。早くとどめを刺さねば」


ここまできて負けるわけにはいかんだろう。伯爵はそういった。


トミーは伯爵がよく助かったものだと驚いたが、息を切らして早口にそう言うのを聞くと、再びクラーケンに集中した。


何としても自分たちがクラーケンを仕留めねばならないという使命感がトミーにはあった。



「わかりました。伯爵、私と彼で撃ちます。狙いを頼みます。ボビーは脱出の指揮を」

「わかりました!」

「仕留めるぞ!」


ボビーが不安定な船でよろめきながら駆け出すと、伯爵はグングニルの後ろについて狙いを定め始めた。


「風向きが西だ。もう少し右へ」


戦歴のない、臆病軍人。


異教徒の、臆病軍人。


そう言われていた伯爵の口から、同行してから初めて軍人らしい言葉を聞き、トミーは驚いて振り返った。

砲手も同じようだった。スレイマン伯爵はクラーケンから目を離さずになんて顔してる。とだけいった。


「本体を狙う。もう少し下へ合わせろ」


 伯爵の指示に従って、重い大銛を二人がかりで動かしていく。


最後の一隻が、トミーの船を残して砕かれるのを見て、トミーは唇を噛む。彼らの死は無駄にしてはならない。


そう考えて、狙いをつけるのに集中し始めたとき、


「今だ! 撃てぇ!」


伯爵の号令は、トミーの思ったタイミングと同じだった。


レバーを砲手とともに力強く引き、グングニルを発射する。


それはクラーケンの本体をめがけて直進し、貫通した。


トミーは今まで貫通しなかったグングニルが貫通した事に驚いた。砲手の方を見ると彼も目を見開いていた。

クラーケンの動きがゆっくりと止まる。


「今度こそやった!」


トミーは思わず叫んだ。砲手のよし!という声もした。

しかし、後ろの伯爵の方からは、静かな声がした。


「……まだだ」


伯爵の方をみると、彼は拳銃をゆっくりと取り出していた。


慌ててクラーケンの方に視線を戻すと、それまで静止していたそれは、最後の力を振り絞り、体を大きくのけぞらせていた。


トミーたちの船を、飲み込もうとしているらしかった。


(やられる)


トミーは本能的にそう感じた。砲手は船縁に駆け出していたようだったが、トミーは動けなかった。

すべての時が恐ろしく遅い時間で動いているようだった。
ここまできて。


そう感じて、目を閉じようとしたときだった。


「何をしている! 逃げろぉ!」


銃声とともに伯爵の叫び声が聞こえた。それはとても遠いところから聞こえてくるようだった。


気がつくと、トミーは海に飛び込んでいた。飛び込む瞬間に見えたのは、クラーケンの恐ろしい口と、それにむかって拳銃を撃ち続ける伯爵の背中だった。


ほんの一瞬だったのかもしれない。しかしその光景は、トミーにはとてもゆっくりに見えた。


トミーは海にたたきつけられると同時に、衝撃で気を失った。




何時間経っただろうか、いや、何日かもしれない。


ボビーらしき声が自分を呼ぶのを聞いて、トミーは目を覚ました。


「無事ですか船長」


ボビーが心配そうな顔をしていた。

トミーは甲板を杖で突こうとしたが、いつの間にか杖はなくなっていた。トミーはそこでやっと、船の残骸や、生き残った船員たちが海上に浮かんでいるのが分かった。戦闘は終わったのだ。
 

浮かんでいる船員たちの中には先ほどの砲手もいた。伯爵を探したが、その姿は近くには見当たらなかった。


「どうしました?」


ボビーの声に振り向くと、彼は疲れきった顔をしていた。


トミーは、ボビーと同じように木片つかまりながら尋ねた。


「クラーケンは?」


逃がしたか倒したかのどちらかという事は分かりきっていた、しかし、トミーはその言葉以外何も浮かんでこなかった。


ボビーは無理やり作ったような笑顔を見せて、


「やりましたよ船長、親父さんの、いや、海の仲間たちの敵は討ちました」
と、自分の事のように嬉しそうに言うと、ある方向を指さした。


トミーがそちらをみると、海面が血で真っ赤に染まっていた。船員たちの血も混じっているのだろうが、クラーケンの血で間違いないだろう。

何本も大銛を体に受け、苦痛と怒りの中で暴れ回っていた、トミーの仲間たちを大勢殺した、クラーケンの血だ。


トミーは赤い海面をじっと見つめて何も言えなかった。


(クラーケンは本当に死んだのだろうか?)


心の中に、そんな思いがあった。

一人の軍人が、木片につかまりながら、片手で顔を覆って泣いていた。

戦闘が終わって、気が緩んだに違いないとトミーは思った。

トミーの気持ちも、その軍人と同じように悲しみの方が喜びよりも大きかった。おそらく他の船員たちもそうだろうと思った。


大きな残骸の上にけがをした者たちを乗せ、元気な者は木片につかまって浮かんでいた。


 ふと、見た事のある顔をした船員が、木片の上に横たえられていた、死にかけているらしい船員を海中へ引きずりおろし、自分は生き残ろうと必死で木片に上るのが見えた。下ろされた船員はそのまま浮かんでこなかった。誰も止めようとしなかった。


 航海長ディーンだった。彼は、トミーが安全だと思って船内へ避難するように指示をだしていたが、船内はクラーケンにひっかきまわされほとんどが死んだようだ。


そんな中彼は生き残っていたのだ。


ディーンは心の優しい青年だったが、今、重症の仲間を海中に沈めてでも生き延びようとしていた。


悲しいことだが無理もないかとトミーは思った。自分も、彼の立場であればそうしていたかもしれない。だが、当然ながらそう考えていない者もいた。


「なんてことを……」


 声がした方を振り返ると、ずぶぬれの痩せた男が、航海長のした行動にあきれ返っているような顔をしていた。


彼は、引きずりおろされた船員を、あの木片に横たえた人物らしかった。医者であることを示す腕章をつけていた。


 トミーはディーンの方をもう一度見た。絶望したような表情をしていた。それは自分のいました事にたいする表情なのか、それともクラーケンとの死闘によるものなのかは、わからなかった。

ある船員が、呟くように歌っていた。故郷の歌のようだった。その歌詞に、「勇敢な……」というフレーズがあった。


それを聞いて、トミーは最後に見た伯爵の姿を思い出した。

「……たぞ」


疲れと悲しみからか、自然と声が小さくなった。


「なんです?」


ボビーの問いに一呼吸置いてから答えた。


「伯爵は、臆病者じゃなかったぞ。」


それでも呟くように言うのがやっとだった。ボビーは何も言わなかった。

最終話へ
0



teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ