2016/11/16

水曜エッセー「オペラ羅針盤」第3回  文化・芸術

オペラ羅針盤多田羅迪夫(たらら・みちお 声楽家・東京藝術大学名誉教授)
                       
魅力的なオペラの「ズボン役」

日本の伝統芸能「歌舞伎」には、男が女を演じる女形があり、「宝塚歌劇団」では、倒錯的魅力の男装の麗人たちが、共に人気を得ていますが、宝塚の「男装の麗人」のルーツが実は「オペラ」にあることをご存じですか?
オペラには、女声歌手が若い男性に扮して歌い演じる「ズボン役」があり、その起源は、中世ヨーロッパの「カストラート」の時代にまで遡ります。ヨーロッパの教会ではかつて女性が聖歌隊で歌うことを許されなかった時代の名残として、今でも聖歌隊のソプラノとアルトは少年が担当する伝統が続いていますが、その少年たちの未熟さをカヴァーするために、「カストラート」が存在していました。少年時代に手術によって去勢された男性歌手で、大人になっても声変わりせず、驚異的な歌唱技術と音域を保ち、妖しい魅力を放ちながら男性役と女性役の双方を演じてカリスマ的人気と勢力を誇っていたのです。19世紀以降、カストラートは非人道的として廃れてゆくのとは逆に、世俗の劇場(芝居とオペラ)では禁制が解かれた女性たちが進出。それまでのカストラートに代わって女性歌手が若い男性を演じ、倒錯的魅力を放つ「ズボン役」が登場するようになりました。モーツァルト「フィガロの結婚」で伯爵夫人に恋する若い小姓ケルビーノがその代表的な例です。
私が11月に出演する、リヒャルト・シュトラウス「ナクソス島のアリアドネ」にも魅力的なズボン役である「作曲家」が登場します。台本は、詩人で劇作家のホーフマンスタール。
このオペラは、ウィーンの金持ちの邸宅の祝宴で、新作オペラを上演するはずが、イタリアの道化師たちの出し物と同時に上演せざるを得ないはめに陥るという設定です。
シュトラウスは、芸術の理想を掲げる感受性豊かな若き「作曲家」役に、かのモーツァルトのイメージを重ねていたのでしょう。
私の役は執事長で、金満家のパトロンのきまぐれな無理難題を、芸術家たちに大仰に伝える語り役。ウィーン国立歌劇場の看板歌手として活躍したエーリッヒ・クンツや、2012年バーデン・バーデン祝祭劇場では、往年の名歌手ルネ・コロが演じていました。


追伸
リヒャルト・シュトラウスが、自分の夫婦間の浮気疑惑に基づくいざこざをオペラにした「インテルメッツォ」に主演した際には、その歌詞の多さに驚かされましたが、今回は日々愉しみながら台詞と格闘しているのです。

2004年『インテルメッツォ』(日本初演)ロベルト・シュトルヒ役 撮影:竹原伸治

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