2016/11/16

水曜エッセー「オペラ羅針盤」第4回  文化・芸術

オペラ羅針盤 多田羅迪夫(たらら・みちお 声楽家・東京藝術大学名誉教授)

オーケストラ・ピットの話

ヨーロッパには各地にロココ様式の室内装飾で飾られたオペラ劇場が多く残されています。客席内部は馬蹄形になっていて、多くは中央の平土間席があり、周りに壁に沿って2、3階の観客席を備え、その2階正面にはロイヤル・ボックス(王侯席)が造られていて、オペラ芸術のパトロンが王侯貴族自身であった歴史を知ることが出来ます。
オペラの舞台と客席との間には一段と低くなった窪みがあり、そこにオーケストラ団員が譜面台の前にそれぞれの楽器をかかえて座っている空間があります。これが「オーケストラ・ピット」又は「オーケストラ・ボックス」と呼ばれる場所。多くは壁も床も真っ黒に塗られていてとても暗いので、ドイツの劇場で「オーケストラの墓穴」と呼ぶくらいです。ところがオペラが始まると、そこからは美しいオーケストラによる音楽が奏でられ、その伴奏によりオペラ歌手たちが歌うのです。
なぜオーケストラ・ピットは、客席平面でなく、建築構造的にもわざわざ面倒な一段と低い深い場所に造られたのか?理由は、二つ考えられます。
一つには、オーケストラ奏者が客席平面上の舞台前面で演奏すれば、舞台上の出来事を鑑賞するのに視覚的に邪魔。二つにはオーケストラの規模が大きくなればなるほど、歌手の声をかき消す可能性が出てきます。オペラ発祥の初期であるルネッサンス期にはほんの数名に過ぎなかった奏者の数も、弦楽器が増え、木管楽器(オーボエ、フルート等)が加わり、金管楽器(トランペットやトロンボーン、ホルン等)が加わる様になれば当然、音量もかなりのもの。その音量と歌手の声とのバランスを取るためにもオーケストラ・ピットは深く地下に潜ることになったと考えられます。
その頃に、前回お話したカストラート歌手たちが、専門化した高い技能をもって、その機能を拡大していったオーケストラとの競演を可能にしたのです。カストラート歌手以外の男性歌手たちは、カストラート歌手たちの陰に隠れてはいたものの、当初は脇役としてその歌唱技術を高めていき、やがて女性歌手と男性歌手がそれぞれの個性を発揮しながら共演する現代オペラの基礎が出来上がったのです。

2002年東京二期会『フィガロの結婚』伯爵役の筆者 撮影:鍔山英次
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