リーマンショック以来、速くも1年が過ぎ、景気後退は収まったというニュースが飛んでいる。しかし、国内消費の低迷は百貨店売上高の連続的急減で表現できる。低価格帯の商材を売る企業の活況はその隙間を埋めるようにニュースとなっている。価格帯が落ちていくと、それだけ総売上高は落ちていく。換言すれば、「デフレ」が進行し消費金額が落ちていく過程である。まさに、内需なき景気回復である。
先日、知り合いの役人と話し、“morichanの業界は大変でしょうね。高額品は特に大変と聞いています”、“ここに来て、エコ支援に乗った自動車関連の企業に少し活気が戻りつつありますが、買換え需要の先取りをしているため来年以降が心配だ”と言われた。どうもこのまま景気が上昇していきそうにもない状況である。いわゆる、二番底を表現しているのかもしれない。
このような中で、少しでも多く売るために価格競争に乗らざるを得ない状況がここにある。
消費低迷期での最大の販売戦略は低価格化であり、衣料品も食品もその傾向を強めている。
小売店でいえば、ユニクロ、H&M、マクドナルド、丸亀製麺、吉野家、日高屋・・。挙げればきりがない。
私も近くのコンビニに昼食を買いに行くことがあるが、昼を少しまわると300円以下の弁当はもうない。食堂やレストランも500円定食が増えている。
まさにデフレが進行している。
大量販売を展開しているユニクロはこれからの販売先を先進国だけでなく中国などの新興国に焦点を当てている。まさにそこでの小売展開である。言い換えれば、日本の消費市場に多くの期待をしない戦略である。この動きは成長率がプラスに転換しても日本の消費は大きく伸びないと読んだ行動である。
そこに、ヤッパリという報道があった。
「米新車販売はや失速」(朝日新聞10月18日付け)は、新車購入助成の「特需」が終るとそのほころびが表面化してきていることを述べている。この需要の先食いは、その後の需要減退に結びつくことは誰でもが予測していたことである。
また、ホンダが「収益減退」や「収益力回復」に向けて、「主要取引先の部品メーカーに対し、国内工場での人件費や生産設備の維持費など固定費を約3割削減するよう要請した・・。固定費削減に加え、設備増強は海外を中心に行うことも要請した」
(YAFOOファイナンスニュース10月20日)というニュースも飛び込んできた。そんな中で、このホンダが自動車業界で先頭を切って黒字転換に成功したことも新聞紙上で明らかになった。
「日産、一転 営業黒字に」(日本経済新聞11月5日付け朝刊)で、「他社に比べ中国で好調」「業界で最も踏み込んだリストラ」「日産自は唯一、国内で正社員4000人削減」「世界全体では9%に当たる2万人を減らす」などが載った。
「景気、来年前半 息切れも」(日本経済新聞10月20日付け朝刊)は、日経新聞社の景気討論会での予測である。
エコ支援付き自動車販売や家電販売は日本の先行き需要低迷に直結している。失業者の増加や賃金下落を基礎に景気回復は徐々に進んでいるそうである。景気回復と裏腹に「特需」は直ぐになくなる様相である。
二番底がそこにあると私は見ている。上記のホンダでも分かるように、政府によるエコ支援と外需頼みが大手製造業に薄日をもたらしてきているが、同時にこの先の内需に期待していない大手製造業の流れが鮮明になってきている。内需の弱さは、いつまでたっても庶民の景気浮揚を導かない。
特に、高額品を販売してきた百貨店売上の動向が現実を示している。中間層や下層の生活レベルが落ちているのは明らかだが、昨年のショック以来富裕層の資産も30%減らしたという話もある。
このような中で、百貨店協会は09年9月売上状況を次のように説明している。
「19か月連続の前年同月比マイナスであるが、減少幅は2か月連続で縮小した。
9月は、引き続く雇用不安や所得環境の悪化、また内需不振によるデフレの進行などが重なり、高額品を中心に依然として厳しい商況であったが、地方都市の一部において下げ止まりの傾向が見られたほか、値頃商材の拡大や催事の強化など各店の対策効果が下支えしたこともあって、売上減少幅は前月(8月/-8.8%)比で1.0ポイント改善する結果となった。
具体的な動向としては、業績低迷による法人需要の減退から外商など非店頭売上が不調であったこと、食品売上やセール比率の増加によって客単価が低下していることなどマイナス要素が見られた一方、5連休となったシルバーウィークは好天にも恵まれ入店客数に大きく寄与したこと、地方物産展やプロ野球優勝セールなどの各種催事が概ね活況であったこと、主力の衣料品分野でも単価ダウンの中で買上件数には復調の兆しが見られること、改装や新ブランド導入が奏功した店があることなどがプラス要素として報告されている」
(日本百貨店協会09年10月19日付け発表)。
売上の対前年比動向
07年1月 08年9月 09年3月 09年9月 09年10月
0% −4.7% −13.1% −7.8% 約−11%
(徐々に下降)(急激に下落)(下落幅が縮まる)(再度下落が始まる)
ここでは表で簡略化して示した(対前年比で見るのは、季節性商品が多く、月による売上変動が大きいためである)。
要するに、百貨店から消費者離れが長期にわたって進んでいたが、昨年9月の金融危機以来今年3月まで急激に売上が下落した。しかしその後、今年9月まで下落しながらも下落幅が縮まってきた。
しかし、先月(10月)の数値が飛び込んできた。
「百貨店、不振止まらず」(日本経済新聞11月3日付け朝刊)によると、直近10月の売上高は「大丸を除いて軒並み前年同月比2ケタ減となった」。
2009年10月各百貨店売上の対前年対比
大丸 松坂屋 三越 伊勢丹 高島屋
−6.9% −13.1% −12.5% −11.2% −11.9%
リーマン・ショックから「1年を過ぎても、衣料不振などに伴う構造的な低迷から脱却できない」。「各社は売上高の3割強を占める衣料の大幅減に加え、宝飾など高額品低迷が続いている。衣料はアパレルメーカーと組んで低価格帯を増やしたが、思うように効果は上がらず『客単価の下落が顕著』(高島屋)」であった。
この5社の単純平均でも−11%であるので、10月以降は再び下落が始まったと見るべきだろう。
7月−9月の経済統計(総務省)では、完全失業率が5.3%と2ヶ月連続の改善を示した。同時に、全世帯消費支出も前年比で+1.0%と伸ばしたが、「消費を押し上げたのは、贈与金などの交際費、自動車購入を含む自動車関係費、テレビ・パソコンなどの教養娯楽用耐久財、医科診療代などの保険医療サービスなど」
(東京10月30日「ロイター」配信)であった。
失業率の実態は6%を超えていると言われている。
大多数の中小企業は人員削減をこれ以上させず、「雇用調整助成金」(およそ給与の60%)を受けることによってジッと耐えている。このままでは、内需が拡大しない限り、雇用は海外に移り、一層の解雇を進めざるを得ない状況にきている。
「崖っ縁の百貨店業界でついに始まった大リストラ」(「ダイヤモンド・オンライン」10月26日『週刊ダイヤモンド』編集部 須賀彩子)は、かなり苦しい台所事情を語っている。
「昨秋のリーマンショック以降、百貨店はかつて経験したことのない売上高急減に苦しんでいる。この10月でちょうど1年たつことから、関係者はマイナス幅の縮小に淡い期待を寄せていたが、売り上げ減少には歯止めがかからない。もはや通常の経費削減策では追いつかず、ついに大リストラが始まった。・・
『社内はそわそわしています。結構、真剣に考えている人もいますよ』(三越社員)。同社が10月から早期退職制度を拡大して、募集を始めたためだ。・・
同様の動きは、百貨店業界全体に広がっている。・・『今の消費不況を抜けた後、消費構造は大きく変わる。これまでの百貨店のように高額帯ばかりの品揃えでは消費者から支持されなくなる』(奥田務・Jフロント社長)と危機感は強く、早々にビジネスモデルの転換を図っている。・・
ある百貨店幹部が漏らすように、もはや「中長期的戦略を描くというレベルではなく、目先をどうするかということで手一杯」と手詰まり状態になりつつある。大手でも百貨店の売上高は損益分岐点スレスレまで下がっており、従来の経費削減策では、利益を捻出するのに限界にきている。
体力消耗戦に突入している百貨店業界で、このまま市場縮小が続けば、その先にあるのは、さらなる再編・淘汰の大波だろう」と。
以上見てきたように、百貨店の売上減は衣料品や食料品の低価格化と結びつき、百貨店に出かける意味を失い始めている。07年で6人に1人が「貧困」と厚生労働省が発表した。今はもっと悪化していると予測できる。そして、この9月末の高卒就職内定率は13ポイント低下し37%と過去最悪の下落幅であった。貧困化が進み、将来不安も含めて割高感が漂う百貨店には出かけない・出かけられない層が増えていると言える。
百貨店の売上動向から、国内の消費動向や貧富の格差を掴むことができる。
外需頼みの産業構造から脱却し、食料自給率を上げて、その生産と消費の関係を作り出す方法を模索する必要がある。そこを基盤とする産業構造になると、自ずと内需重視へと結びつくと私は思う。
周りで、休日農業に勤しむ若い人たちが増え、その人たちは百貨店に興味が沸かないようである。むしろ安くて安全でおいしいものを求めている。決して生産者の域にまでは至らないが、素材を見る目は育っているだろう。
そんな人たちが安心して生活できる
関係性を拡げたいものだ。

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