2013/8/23

夏休みの読書感想文が終わらない君たちに No.3 ・・・ 『NHKにようこそ』  
 

クリックすると元のサイズで表示します


■ 今年もやって来ました、「人力でGO」最強企画 ■

部活にでも入っていなければ、夏休みは基本的に暇である。

塾や予備校に通っていなければ、その暇さは尋常ではありません。
特に今年の夏などは、クラーの効いた部屋から、猛暑の外に出るのには勇気が要ります。

部屋でゲームをしたり、たまに友達と誘い合ってショッピングモールを徘徊したり、
そんな極々当たり前の夏休みを過ごして、そろそろ夏休みにも飽きてきた頃
多くの方が、ある事実に気付きます。

「あ! 読書感想文の本、決めてねぇーー」

そんな君たちに今年もお送りします、このブログの最強企画。
「夏休みの読書感想文が終わらない君たちに」第三弾。

今回は滝本竜彦の『NHKにようこそ』を取上げます。


■ 『NHKにようこそ』を読んだ中学生男子の気持を想定する ■

『NHKにようこそ』・・なんなんだ、このタイトルは?
誰なんだ?この表紙で微笑む、アニメ調の少女は?
どうして、いつも本屋で平積みになっているの?
何で角川文庫の100冊に入っていたの?
・・ここ数年、気になってました。

思い切って読んでみました。

『NHKにようこそ』・・・中学の課題図書にすべきです。


主人公は地方から東京の大学に進学します。
しかし「彼は引きこもり」になってしまいます。
誰かが彼の噂をしている様な気がして、外出する事が出来なくなります。

大学も中退して「マスター・オブ・ひきこもり」を自称する彼か現在22歳。
親からの仕送りで、どうにか生きています。
全く外出できないのでは無く、必要に迫られて食料品を買出しに出かける程度の都合の良い引きこもりです。

最近では、自分の引き篭もりは世界を支配する秘密結社の陰謀の結果と思えてきます。
集金にやって来るNHKもきっと秘密結社に違いない。
そう、NHKとは「日本・ひきこもり・協会」の略に違いない。
自分が引きこもっているのは、NHKの陰謀の結果なのだ。
自分はNHKの陰謀を暴いて、世に知らしめなければいけない・・・と。

そんなある日、宗教の勧誘で佐藤の部屋を一人の少女が訪れます。
彼女、中原岬の目的は、新興宗教の勧誘などではありませんでした。
彼女の目的は、佐藤の引きこもりを解決する事。
夜の公園に佐藤を呼び出した岬は、「佐藤の引きこもりを解決するプロジェクト」の契約書を佐藤に手渡します。

突飛な行動をする少女の出現に佐藤は戸惑いますが、困った事に岬ちゃんはカワイイ。
とってもカワイイ。

引きこもりでも意地はあります。
佐藤は岬に自分は引きこもりでは無い、ゲームクリエーターだと主張します。
昼間、部屋に居るのは在宅勤務なのだ・・・と。

佐藤の部屋の隣からは日夜、美少女アニメのテーマソングが聞こえて来ます。
あまりの煩さに、佐藤は意を決して隣の部屋に怒鳴り込みます。
そこで佐藤が会ったのは、高校の後輩の山崎。
彼はアニメの専門学校に進学していますが、最近は引きこもり気味。

久しぶりの再会に意気投合した二人は、エロゲーの制作を決意します。
岬に自分が単なる引きこもりで無い所を見せつけようというのです。

だけど、次第に二人はあらぬ方向に暴走して、
ロリコンにはまったり、合法ドラックでラリッタリする。

一方、一見まともに見える岬の行動はカナリ怪しい。
佐藤に夜の公園で引き篭もり脱出のレクチャーをしますが、
どうもその手の本を読みあさっている様子。
どうも岬ちゃん自身が引きこもりだった様で、
佐藤の救済は、ある意味において彼女自信の救済を目的としているうように思えます。

そんな、世界からドロップアウトした若者達の、相当に痛い日常が次々に描かれます。
自己中心的で、無駄ににプライドが高く、そして傷つき易い若者達は、
七転八倒を繰り返しながらも、お互いの存在の大切さを知り、恋とは何かを知って行くのです。
この小説を読むと、青春とは「恥ずかしい事」の代名詞ではないかと思えて来ます。
きっと誰の青春でも、大人になって振り返ると、「黒歴史」の塊なのでしょう。
でも、青春の最中では、どんな些細な事でも重大事件だ。

僕らはちょっとした事で悩む。
身長が他人より低いとか、あそこの長さがどうとか・・・
模試の成績が思わしくないとか、好きなあの子に彼氏が出来たとか。

特に、「自分なんて大したやつじゃない」と知っていながら、
だけどスゲーやつだと認められたくて、いろいろとヤラカシテしまいます。

両手離しの自転車で田んぼに突っ込んだり、
駄菓子やでガムをかっぱらって、友達に自慢したり・・・
けっこー、青春ってイタイ。・・・痛すぎる。

でもこの本の佐藤や山崎、岬を見ていると、自分よりイタイやつが居ることにホットします。
ああ、「こんなんでもいいんだ・・」そう思ってホットします。


歩行者天国で見知らぬ人にナイフを人に突き立てた若者がこの本を読んでいれば
彼はきっとそんな事はしなかったでしょう。

ビルから身を投げた若者だって、もしこの本を読んでいたら
プールの飛び込み台に変更したかもしれない。

青春って、辛くて、ショボくって、情けなくて、行き場が無くて、
カッコ悪くって、・・・でも、なんて愛らしいんだろう。

そう気付かせてくれただけで、この本に出合えて良かったと思います。

表紙がアニメ調だろうが、主人公がロリコンだろうが、合法ドラックでラリッたりしても
この本は中学の課題図書にすべきです。

多くの若者がこの本を読めば、世の中、少しは楽しくなるかも知れない。
人生はほんの少し、変わるかも知れない。


■ 青春小説の名作であり、日本版のロストジェネレーション ■


ここからは真剣に評論。


『NHKにようこそ』このカッコ悪さ・・・どこかで読んだような・・・。
そうだ、ジャック・ケルアックの『路上』じゃないか。
あるいは、ヘンリー・ミラーの『北回帰線』だろうか?
行き場の無いエネルギーが、文字に姿を変えて
本の中でグツグツと煮えたぎる感じ・・・。

そうだ、これは「パンク」だ!!

若者はいつでも、処理しきれないモヤモヤエネルギーをたぎらせています。
引きこもりや、オタクなら、モヤモヤレベルは相当のものです。
それが、表現手段を得て外界に噴出する現象が「パンク」なんです。

「パンク」とはセックス・ピストルズに代表される商品化された「パンク」とは別物です。

あるときは、「ロスト・ジェネレーション」を呼ばれたり、
あるときは「ヌーベル・バーグ」と呼ばれたり、
あるときは「ニュー・ウェーブ」と呼ばれたり・・・。
あるいは「オルタナティブ」と呼ばれたり・・・。
要は、モヤモヤエネルギーが映画や音楽や文学に姿を変えた時、
そこに「パンク」が生まれるのではないでしょうか?

中年の元パンクロッカーが小説を書いたからって
そこにパンクは存在しません。

「パンク」は辺境(オルタナティブ)から生まれます。
社会の辺境、文化の辺境、
・・・都会の辺境としてのアパートの一室からも。

「パンク」は永続ではありません。
モヤモヤエネルギーの噴出と共に、燃え尽きるものです。
『NHKにようこそ』の滝本竜彦は「パンク」です。
綺麗に燃え尽きて、もう小説を書けません。
『涼宮ハルヒ』の谷川流も、多分、綺麗に燃え尽きています。新作が出てきません。
「ハルヒ」の存在自体が、既に「パンク」です。

「パンク」は、年齢を問いません。
フェリーニは一生「パンク」でしたし、
宮崎駿や富野も、モヤモヤレベルと反骨精神において生涯パンクです。
『勝手にシンドバト』のサザンは充分パンクでしたが、今はただのオヤジです。

「パンク」は破壊します。
既存の概念や、社会の仕組みや、表現の技法を。
東野圭吾や、伊坂幸太郎や、福井晴敏は「パンク」ではありません。
彼らは、充分賢くて、永続的で、生産的です。

私は「パンク」が好きです。

そして、ライトノベルと呼ばれるジャンルには、「パンク」があります。
・・・その多くは、花火のように一瞬で消えてしまうのでしょうが・・。




今回は2008年9月6日の記事をREMIXしてお送りしました。

NNKにようこそ・・・文学におけるパンクとは  

実はこの本、数年前に娘の中学に寄贈してしまいました。
学級文庫に『キノの旅』を置いていた英語教師ならば、桜庭一樹の初期の作品や、『空の境界』や『NHKにようこそ』を図書室に置いてくれるのではないかという淡い期待を込めて、Book Offよりも中学の図書館を選びました。
はたして、『NHKにようこそ』は図書館の書棚に並んでいるのでしょうか?

そんな訳で、本日の記事は随分といい加減な記憶によって書かれています。
ですから、もし万が一、上の「感想文」をパクって提出しようという方がいらしたら、是非、この本を買って、ざっと目を通しておいて下さい。

尤も、面白いので、ついつい読みふける事になるとは思うのですが。


本日は、中学生に戻った気分になって、読書感想文などを書いてみました。
8

2013/8/25  3:48

投稿者:人力
滝本竜彦のデビュー作は『ネガティブ・ハッピー・チェンソー・エッジ』。夜な夜な出没する謎のチェンソー怪人と女子高生が戦いを繰り広げる話し。下宿生活の男子高校生が偶々その戦いに遭遇して、何故だか毎晩一緒に戦うハメに・・・。これはボーイ・ミーツ・ガールの典型的なライトノベル以外の何物でも無いのですが、『NHKにようこそ』は、引きこもりエンタテーメントとしてそこそこ面白いです。

GONZOがアニメ化していますが、文章が持つ独特のヤケクソ感が薄れているので、私は原作派です。

2013/8/24  20:45

投稿者:鍛冶屋
原作あったのか・・・。
自分はマンガで読みましたが、あまりの痛さ加減に
途中で挫折しました^^;)。

2013/8/24  20:08

投稿者:人力
ベジ子さん

実は私は子供の頃、伝記が大好きで、特にエジソンと野口英世が好きでした。現在は「偉い人=お金を稼ぐ人」的な風潮になってしまいましたが、ビル・ゲイツやスティブン・ジョブスあたりが現在の偉人なのでしょう。本当は、必死に働く市井の人達皆さんが偉人なんですけどね・・・親の苦労は子知らずと言うか・・・。

2013/8/24  19:33

投稿者:ベジ子
こんばんは。私も決して「○○を読むべき」と押し付ける気はありません。むしろ、多様性があった方が良いと思っています。ただ、周りの若者や甥っ子を見ていると、あまりにも安易に流されて行くので、私にもっと何か出来なかったのかなぁ、、、と。例えばお決まりの伝記でも、苦難を乗り越えてひたむきに生きる事の大切さとか。パッと出て成功しているモノしか見えていない様なんです。
『NHKにようこそ』今度本屋でチェックしてみます。出会えて良かった本なんてうちの子は皆無でしょうから、さりげなく置いておくかも知れません。

2013/8/23  22:59

投稿者:人力
ベジ子さん

この本、作者自身が引きこもりだったんです。編集者がネットで原稿を応募した所、引きこもりでも応募が出来たので、埋もれていた才能?が発掘されたと評判になりました。

引きこもりの作者の鬱屈したエネルギーが、文章から噴出してきます。ただ、中学生向けかと言われると、多くの良識的な大人は首を傾げるでしょう。

ただ、私は「子共は○○な作品を読むべき」という考え方には否定的で、特に現代の多くの子供は読書習慣すら無いので、刺激的な作品でも、興味本位からでも、とにかく一冊の作品を読み切る事から始めなければならない子供が沢山居ると思っています。

そういう、読書週間の無い子供達にとって、所謂、課題図書というのは読書嫌いを増やすだけのものだと思っています。

私は当時中学2年だった息子にマンガで読書感想文を書かせた事があります。(エリア88という中東の傭兵部隊の作品、先進国と軍需産業に翻弄される中東の小国の物語)

どうせ先生には分からないのだから、社会派のマンがを読む事の方がその当時の彼の役に立つと思ったからです。それなりの感想文を書いていましたから、明治の文豪の作品で形式的な感想文を書くよりは意味があったと思っています。

2013/8/23  19:02

投稿者:ベジ子
ご紹介の本は中学生向けなんですか。
うちの子の同級生にひきこもってしまった子供さんがいるのですが、外部からは分からない何らかの発達障害があるのかな?と勝手に思ったりしています。
親としてはぜひ偉人伝記物を読んで欲しいですが、考え方が古いのでしょうね。人力さんみたく柔軟性があれば楽しい家庭になりますね。

※投稿されたコメントは管理人の承認後反映されます。

コメントを書く

名前
メールアドレス
コメント本文(1000文字まで)
URL




teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ