2016/8/8

夏休みの読書感想文が終わらない君たちに・・・『夏美のホタル』 森沢明夫  
 

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■ 今年もやります、夏休み企画 ■

今年も「読書感想文」の季節がやって来た。

小学生は課題図書が決まっている場合が多いが、中学は自由に選べる。そうなると、普段小説など読んだ事の無い君達は、「本選び」で先ず悩むに違い無い。「なるべく薄い本で有名な作家の本」というのが定番かと思う。

しかしここで『星の王子様』なんて選ぶと最悪だ。「王子様はカワイそうでした」なんて感想しか書けないだろう。(尤もBL好きの女子ならば、色々な妄想は膨らむだろうが・・・。)

ヘミング・ウェイの『老人と海』も危険な一冊だ。「まじサメ最強!!」なんて感想を書いたら再提出必至だろう。

そこで、今年お薦めしたい1冊はこれ。森沢明夫の『夏美のホタル』。先日映画を観たので、原作を読んでみたら、これが意外にも読書感想文向きだった。

映画 『夏美のホタル』 聖地巡礼



■ ちょっと粗筋を ■

ネタバレ全開!!

大学で写真を専攻する信吾と、彼女の幼稚園教諭の夏美は、夏見の運転するバイクで田舎の一軒の商店に立ち寄ります。夏美がトイレを借りたかったから。店の名前は「たけ屋」。店先にはアイスと冷凍食品が入った冷凍庫が置かれ、パンと一緒にゴキブリホイホイが売られている様な何でも屋だ。

夏美が戻って来る間、信吾が店を覗くと店の奥の居間から老人がが話し掛けて来た。「あんたでっかいカメラぶら下げてるなぁ」。液晶で写真を見せると、感心された。褒められて信吾は悪い気はしない。そこへ夏美が戻って来た。彼女の傍には老人の母親と思われるお婆ちゃんが立っていた。老人の親子は突然現れた若者にお茶を勧め、今度はホタルを見に来いと誘う。

6月の梅雨の晴れ間の土曜日、夏美と信吾は再びたけ屋を訪れる。すると店の前には子供が二人。バイクに乗る女性が珍しいらしく、「なんで女が運転してるの」と遠慮も無く聞いて来る。近所の酒屋の兄妹はたけやの老人を「地蔵さん」「ヤスばあちゃん」と呼び懐いている。夕刻になるのを待って近くの川辺に降りてゆくと無数の光が舞っていた。ホタルの光だ。道すがら地蔵さんが持っていけと言ったホタルブクロの花にホタルを入れると、釣鐘状の花全体が幻想的にぼわっと光る。ホタルの光に照らされた夏美を信吾は夢中になってカメラに収めた。

たけ屋に戻ると信吾は「この村と自然をテーマに卒業制作を撮ろうかな」と何気無く口にした。それを聞いた地蔵さんは、使っていない離れを寝泊りに提供すると言ってくれた。こうして信吾と夏美は小さな村でひと夏を過ごす事になる。

地蔵さんは信吾に川遊びを色々と教えてくれた。エビや魚を捕ったら、それをヤスばあちゃんと夏美が料理して夕飯のおかずにしたり、酒の肴にした。信吾はすっかり川遊びの虜になった。

ある日、たけ屋に作務衣姿の男が現れ地蔵さんと酒を飲んでいた。彼はよそ者の若者をジロリと見ると「お前ら家賃はいくら払うんだ」と聞いた。感じの悪い男は地蔵さんの友人だと言う。「嫁に逃げられた者同士」だと。地蔵さんが離婚していた事は二人には驚きだった。

二人は地蔵さんの過去を知り、今でも肌身離さない古い妻子の写真の裏に書かれた「ありがとう」という色の薄れたインクの文字を見る。「生まれてきてくれてありがとう」・・母子家庭に育った地蔵さんは、貧しい暮らしで自分の存在が母の負担いなっていないか子供ながら責任を感じていたが、若き日のヤスばあちゃんは「生まれてきてくれてありがとう」と地蔵さんの頭をよく撫でてくれた。自分が息子にそうしてあげられない事が地蔵さんには心残りだったと・・。

無愛想な作務衣姿の男は雲月と言う有名な仏師だった。彼の掘る仏像には命が宿るという。たけ屋に買い物に現れた彼は、店番をしている信吾につり銭はレジに入れておけと言う。そして「雨上がりは釣れるぞ」と信吾に告げる。案外悪い人では無いのかも知れない。

粗筋はここまで・・・

続きは本を読んでみよう!!
仏師の雲月さん、マジでカッコイイです!!

小さな出来事を瑞々しい筆致で丁寧に描き、事件など何も起きないのに次のページを捲る手を止められない。

■ 人は支え合って生きている ■

この本のテーマは「人のつながり」だ。人は誰かと支え合って生きている。親と子は勿論の事、偶然知り合った都会の若者も、変わり者の仏師も、小学生の兄妹も、人とのつながりは、ほんの少しの幸せを少しずつ積み上げている。

自らつながりを絶った別れた妻子への思いも、見えないつながりとして再び人と人を結び付ける。そしてそこから新たな小さな幸せが生まれてゆく。

一方で田舎の閉鎖的社会はよそ者を拒絶する。風変わりな仏師も、突然バイクでやって来た都会の若い男女も田舎の社会は普通は受け入れはしない。たけ屋の老人二人は多分寂しかったのだろう。だから、突然現れた若者に親切にし、彼らが訪れる事を心待ちにする。

時間が止まった様な田舎の、老人二人の変化の無い暮らしに無邪気に入り込んだ若者達は、固まっていた時間をゆっくりと溶かしてゆきます。そして頑固な雲月の心も。

■ 「生まれてきてくれてありがとう」という陳腐な言葉がなぜかイヤにならない不思議な作品 ■

実は私は「生まれてきてくれてありがとう」という言葉がダイキライです。全ての生命の営みの中で人間の生命だけを特別視している様で嫌いです。これから子供が巻き込まれる様々な困難や苦しみを思うと、「生まれてきてくれてありがとう」という言葉は、親のエゴ丸出しでキライです。

ただ、この小説の中だけは「生まれてきてくれてありがとう」という言葉が素直に心に浸透してきます。人が普通に生まれて、普通に生きている事の素晴しさに気付かせてくれる作品です。

中学生にとっては親は「ウルサイ」だけの存在かも知れません。「オレなんて、ワタシなんて産まなきゃ良かったじゃない!!」なんて親も向って言ったりした事がある人も少なく無だろう。
そんな君達にこの本は是非読んで欲しい。今は良く分からないかも知れないけれど、きっと将来自分達が親になった時に、もう一度この本を読みたくなるはずだ。


50歳になる私も、もう少し親を大切にしようと反省させられている。



中学生、高校生の諸君にお薦めの本をもう少し紹介する。
トラップも有るから選択には注意が必要ですが・・・。


夏休みの読書感想文が終わらないお子様に・・・カラフル

夏休みの読書感想文の本が決まらない君に・・・有川浩「レインツリーの国」

夏休みの読書感想文が終わらない君たちに No.3 ・・・ 『NHKにようこそ』 

夏休みの読書感想文が終わらない君へ・・・『きりこについて』

分が演じるキャラクターとは自分自身では無いのか?・・・庵田定夏「ココロコネクト」

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小説というバーチャルリアリティー・・恩田陸「夜のピクニック」



<追記>

映画と小説は全然別の作品でした。映画では主人公は夏美になっていて彼女も写真家志望。そして勝気な性格とされていますが、原作の主人公は信吾。夏美は幼稚園教諭で天真爛漫。ただちょっと哲学的な事を不意に言ったりします。「小説と現実って、アジの開きに上を下みたいだよね。味は一緒で、骨があるかどうかの違いしか無い」みたいな・・・。

映画では、別れた奥さんに連絡しようと言い出したのは夏美でしたが、原作では雲月が言い出し、をれをヤス婆ちゃんが拒みます。

まあ、色々と違う原作と映画ですが、同じモチーフの別の作品として楽しめば良いかと。個人的には小説の方が好きかな。



<追記2>


ちなみに原作のバイクはHONDAのCBX400F。映画ではYAMAHAのSR400。ここら辺はスタッフの好みの問題なのか・・それとも親父の形見としてはレトロな風貌のSR400の方がイメージに合うのか・・。

ちなみに作者の森沢明夫は千葉県の船橋市出身。実家のお隣の市です。高校時代に免許を取ってバイトでバイクを買った森沢氏は、授業をさぼっては房総を走っていたみたいです。そんな彼がトイレを借りに立ち寄ったのが「たけ屋」のモデルとなった「角屋」。

そこには老婆と息子さんが住んでいて、彼はその後何度も通ったそうです。社会人になって忙しくなり、久し振りに訪れると老婆一人になっていた。そんな実際の体験を元に書かれた小説ですが、舞台となった筒森の集落は私も大好きな場所です。自転車で通る時は集落の下を通る新しいトンネルを通らずに、わざわざ峠道を筒森の集落まで登って行きます。峠道のてっぺんに有るのが角屋です。(今はシャッターは閉まったまま)

作中、地蔵さんが運び込まれた海辺の総合病院は鴨川の「亀田総合病院」ではないでしょうか?映画では大多喜町の他の病院でしたが。アジサイの咲く寺というのは麻綿原高原ですね。

森沢氏の映画化された作品に『虹の岬の喫茶店』(映画では『ふしぎな岬の物語』・主演は吉永小百合)が有りますが、この作品も鋸南町にある海辺の喫茶店がモデル。ロケもここで行なわれています。今度自転車で行ってみたいと思います。

千葉県は神奈川と同じく東京の隣りの県ですが、房総半島中央部や南房総は本当に「田舎」がいい感じで残っています。交通量も少ないのでバイク乗りや自転車乗りには天国です。



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