2018/8/7

『未来のミライ』は名作だ・・・派手さは無いが、じんわりと効く  アニメ
 

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『未来のミライ』より

■ 世代によって評価が分かれる作品 ■

『バケモノの子』の出来が良く無かった細田守監督。ライバルとなった新海誠監督が『君の名は。』という特大のホームランを放った後だけに、新作『未来のミライ』には細田守監督の威信が掛かっています。さぞや肩に力の入った作品を作って来るかと思いきや、これが意外にサラリとした「名作」。

ネットの評価を眺めると、子育て経験のある方達からは好感されていますが、若い世代には受けが悪い様です。

主人公は4歳の幼児、くんちゃん。この子、リアルに居たら「このガキ、ウゼー」と思わず眉をひそめそうなワガママ。理由は妹が生まれて良心の関心が妹に向いてしまったから。・・・そう、いわゆる「赤ちゃん帰り」というヤツです。

2時間近く、ガキのワガママに付き合わされて、若者が抱く感情はネガティブなものになる事は容易に理解出来ます。しかし、そんな子供に振り回された経験をした事のある世代には、かなりリアルな体験として懐かしく感じますし、現在、まさに子育てに奮闘する世代にはリアルな日常として共感を呼ぶはずです。

■ 大きな事件も、スペクタクルも無いけれども「名作」 ■

『君の名は。』は、2年という時間の隔たりや、隕石の落下という物語の核心が大掛かりで、SF的娯楽作品として良く出来ていました。これは観客に分かり易く「感動」を与える事が出来る物語です。

しかし、新海作品は本来、「大きな物語」を排除して、日常の些細なリアルを積み上げる事で静かな感動を生み出す演出を得意としています。新海誠の演出は、ストイックさを突きつめた先に存在する、ある種のカタロシス到達する手法として、ミニマムアートにも近い。そして、ストイックな表現の中で風景だけが雄弁な事を特徴としていました。

その新海監督がポストジブリとして、万人受けする作品を期待されて作った作品が『君の名は。』でしたから、細田監督はさらにそれを上回る「万人受け」を狙って来るだろうと、私は幻滅にも似た諦めを抱いていました。

しかし、細田監督やスタッフは意外にも、「本当に小さなのホームドラマ」を丁寧に作っていて、これは意外でした。

「バケモノの子」で安易に観客の評価を得る為に分かり易い「ハリウッド型演出」を用いた細田監督ですが、「万人受け」する映画は細田監督の性に合わないと気づいたのかも知れません。あるいは「バケモノの子は要望通りに作ったから、今度は俺の好きな様に作らせてくれ」と言ったのかも知れません・・・。(妄想ですが)

かくして出来上がった『未来のミライ』は、スケッチの様な散文的な作品で、大きな感動がドドーと押し寄せる事はありませんが、観終わった後、様々なシーンや仕草が、ふとした切っ掛けで、ふっと思い浮かんで来る映画です。私はこういう映画は「名作」認定しています。

例えば原恵一監督の『カラフル』や『百日紅』が、これに近い感覚の映画。シーンが心に住み着く様な、強い浸透性を持つ作品です。『おおかみ子供の雨と雪』も、同じ部類の映画です。

■ 細田監督の父性感の変遷が面白い ■

『未来のミライ』の主人公は4歳の幼児だと表面的には見られてしまいますが、実は主人公は子育てに奮闘する若いお父さん。

会社から独立して個人で開業したばかりの若い建築家ですが、開業したてで仕事はそれ程忙しくありません。しかし、立派はマイホームを建ててしまったのでローン返済の為に、出版社に勤務する奥さんが、産休を早めに切り上げて職場復帰します。

4歳の男の子と、生まれたばかりの女の子の面倒を見る事は、父親にとっては苦痛でしかありません。さらに奥さんが結構気が強い。くんちゃん「鬼ばば」と言いますが、実はダンナにとっても「鬼ばば」に見える時が有る。(これ恐妻家の私はかなり共感しました)

これ、細田監督の実体験と反省を踏まえた表現では無いかと思います。フリーになった後、ジブリに乞われて『ハウルの動く城』の監督を任された細田守は、絵コンテまで切った段階で監督を宮崎駿と交代します。鈴木プロデューサーが「崎で無ければ客が呼べない」と判断したからです。ほぼ手弁当でスタッフを手配していた細田監督は、この時、もうアニメ業界には居られないと思う程の状況に置かれます。見かねた古巣の東映アニメーションが『おジャ魔女どれみ ドッカーン』の2話程の監督を依頼した為に『どれみと魔女をやめた魔女』という神作品が生まれ、結果的に今の細田監督に繋がります。

しかし、この頃、細田監督はきっと収入が少なく、奥さんが働きに出ていたのでは無いか。家で細々とアニメの請負仕事をこなしながら、家事と育児をしていたのでは無いか・・・。そんな妄想がムクムクと膨らんでしまう『未来のミライ』の描写の数々です。

実は細田作品の父親は、時代と共に変化しています。

1) 父親不在の時代

『おおかみ子供の雨と雪』では、父親は早々に死んでしまい、母親が二人の子供を育てます。これは、多分、監督がアニメ監督として多忙だった時代、奥さんが一人で子育てをしていた時の話だったのでは無いか・・・。

2)代理父の時代

『バケモノの子』ではバケモノが父親代わりをしています。これは子供にあまり関われなかった監督の贖罪なのかも知れません。最期に本当に父親が登場したと思いますが、実際の父親の印象は驚く程薄い。細田監督は自分が果たせなかった理想の父親を「バケモノ」として描いたのでないか・・・。

3)父性回復の時代

『未来のミライ』では、父親は育児に奮戦していますが、最初は子供は恐怖の対象です。育児も働く奥さんへの義務感から、やらされている感じが強い。それでも、徐々に子供の成長に歓喜する様になり、だんだんと父性に目覚めて行きます。これ、世のお父さんの殆どが似た経験をされている事でしょう。多分、細田監督のお子さんも成長されて、育児をしていた頃が懐かしくなったのかな・・・と。そして、子供から自分を阻害する必要もなくなったのかな・・・そう妄想しています。


■ 「子供の動き」でジブリのアニメーター達は震撼するだろう ■


妄想はさて置き、この作品の技術的な見どころを少し語ります。

多くの方が指摘されている様に、子供の仔細な動き、仕草、言動など、本当に良く観察されています。

一方で、動き一つ取ってもリアルな動きを再現しただけでは無く、アニメとしてのデフォルメが見事にされています。これは「子供の動き」を得意とするジブリ出身のアニメターは「ヤバイ」と震撼しているかもしれません。

比較すべき作品はトトロなどのファンタジー系の作品では無く、『アルプスの少女ハイジ』や『母を訪ねて三千里』といった日常系の作品。宮崎駿の作画は、子供のふっくらした肉付きと、ぎこちない動きが当時としては見事に再現されていますが、一方で着ぐるみの様なムクムクとした感じが付きまといます。

『未来のミライ』での作画は、指の一本一本にまできちんと骨が通り、その周りを幼児の柔らかな肉が包み込んだリアルさが有りながら、一方で動きのリズムや表情のデフォルメには、ジブリ東映動画が生み出して来た「アニメ的なリアル」がしっかりと下地として存在しています。思わず溜息が出てしまう程に。

■ 「グラナダの奇跡」の先にあるカメラワーク ■


カメラワークも秀逸です。

TVアニメ『明日のナージャ』の26話や、『バケモノの子』で見せた、画面を固定して左から掃けた人物が右から再登場して視聴者に軽いショックを与えます。これは予期せぬ所から人が現れてドッキリさせるのと同じ原理ですが、カメラを固定する事で成立します。(ファンはナージャの26話の一連の演出を「グラナダの奇跡」と呼ぶとか呼ばないとか・・・)

今回は似た効果を、カメラのパン(横方向の回転)で行っています。中庭でくんちゃんが振り向くと、視点の回転と共に中庭の景色が変わり、そこに見知らぬ男が立っている・・・。これは映画などで昔からある演出ですが、風景まで一遍するのでドキリとさせられます。

さらに『未来のミライ』では、ステップフロアーをカメラが右側にパンして行くと、その先々でくんちゃんが登場するという演出も印象的です。これ、古いアメリカのホームドラマでも見られる手法ですが、空間の移動と時間の移動を同時に行うテクニック。

この様に、細田監督のカメラワークは非情に凝っていて、様々な映像表現に精通しています。昨今の日本のアニメのカメラワークは、移動カメラが様々な角度から人物を追い続ける『進撃の巨人』も立体機動の戦闘シーンの様な派手なものに注目が集まりますが、地味なカメラワークも演出の意図に合致すれば、素晴らしい効果を生み出す事が出来るのです。

■ 細田監督の描く夏の映像は感動的 ■

前情報で、「街の俯瞰映像が凄い」という評価が見られましたが、これは、街を上空から俯瞰して、くんちゃんが住む家にズームアップする映像。CGで車などの動きも入力する手の込みようです。実はこれは『バケモノの子』の冒頭の渋谷のスクランブル交差点の人が行き交うシーン同様に「今の技術ならこんな事も出来ます」程度の話題作りの映像。

確かにオーーーとなるのですが、これはお金があれば誰が監督をしても出来る映像なので、私はあえて評価はしませんが、物語終盤でこの映像が再び使われた時に、全く違う感想を抱く事になります。ヒントは「帰還」。

これとは別に、風景で感動を誘うのは「夏」の光景。サマーウォーズの坂道のシーンといい、細田監督の描く夏のシーンは本当に素晴らしい。ムウッとした暑さと、そこにスーと吹く風が見事感じられ、それが物語のハイライトになったりします。今回は三浦半島をバイクで走るシーンが見事でした。


■ 大きな感動を期待せず、ちいさな感動を広い集めに劇場へGO! ■


私は『未来のミライ』は必見の映画だと思います。『君の名は。』や『この世界の片隅に』の様な大きな感動を期待すると肩透かしに合いますが、子育て経験のある方ならば、小さな感動が沢山拾えるはずです。


『サマーウォーズ』では「団結する親戚」を同じ時間の中で描いた細田監督ですが、今回は「時間を越えて繋がる家族」を見事に描いています。実は『未来のミライ』は、細田映画の集大成と言っても過言では有りません。

ポストジブリとして過大が期待が掛かる中、「大人から子供まで楽しめる映画」という課題を、見事な形で作品に昇華した細田監督に、私は最大の拍手を送りたい。



■ 最期に苦言を・・・ ■

「名作」ではあるけれど「傑作」では無い『未来のミライ』。

その多くの原因が、脚本の下手さにあります。ご本人の脚本ですが、アイデアが先行し過ぎていて、シームレスにエピソードを繋ぐ事に失敗しています。

ただ、キャラ立ちさえ良ければ、そういうアラは意外に気にならないのですが、何せ4歳の幼児ですから、観客が感情移入して幼児のファンタジーに没入するのは難しい。その点、『となりのトトロ』の宮崎駿は突出していたのだと、改めて痛感させられました。

初期細田作品の名作は、TVシリーズのキャラクターが「不穏な空気」の中に置かれる事の違和感によって支持を集めていた。要は「変な作品」だから目立った。

『ポケモンアドベンチャー』の「コロモン東京大激突」も、シリーズ中では奇異で浮いていますが、悪目立ちしています。「どれみと魔女をやめた魔女」も同様です。元々、ストーリーが自然に流れない事を特徴とする監督なので、家族向きの娯楽作品の脚本は無理なんです・・・。

だから私は、細田監督が再び、キャラクター物の作品を撮らないか密かに期待しています。そうすれば原恵一の『クレヨンしんちゃん 戦国大合戦』や『オトナ帝国の逆襲』の様な大傑作が観れるのでは無いか・・・。




最後に一言だけ・・・こんなに甘やかされて育ったガキは、ろくな大人にならない!!だいたい、あのオモチャの量は異常です。・・・実は私はくんちゃんの未来が心配でならない。多分、鉄道の運転手に憧れるのでしょうが、自動運転の時代ですから・・・。



さらに一言・・・・「ひいじいちゃん」が全てを持って行く作品です・・・。


3

2018/8/15  3:18

投稿者:人力
よたろう さん

アニメ作家に限らず、クリエイティブな仕事って、初期の創作衝動がどれだか持続するかがカギですよね。宮崎や富野はその点で突出しています。

一方、凡庸なクリエーターは創作意欲が涸れるとセルフコピーを始めます。音楽で言えばサザンオールスターズなどが良い例ですが、ファン層が定着した後は変化を止めてしまいます。アニメ監督では庵野監督が真っ先に思い浮かびます。劇場版エヴァなんて・・・。一方、コダワリで作品を作り続けているのは新海誠監督。彼の拘りは「離別」だと思うのですが、『君の名は。』も、最後のシーンをすれ違いで終わらせたら、完璧な新海作品になります。

細田作品は毎回、全く違うテーストの作品なので、名声が確立した今でも、新しい事にチャレンジしている様に錯覚しますが、実は彼には創造の根源となる「執着」が掛けているのかもしれません。一部の人は「ケモナー的偏愛」を指摘しますが、それが作品にストレートに表れてプラスに働いたのは『おおかみ子供の雨と雪』だけだと思います。

今回の『未来のミライ』は優等生的作品で「感動」が少ない事は確かです。頭で作った作品。一方で家族の過去にクンちゃんがトリップするシーンには、素晴らしいものが有り、母の子供時代にトリップするエピソードや、曾祖父の若い時代のトリップするエピソードを1本の作品にすれば、素晴らし作品になのにと・・・残念でならない。

まともな脚本家やスタッフが居れば、アイデア出しの段階で、テーマを絞って、例えば曾祖父の時代だけのトリップでクンちゃんの成長物語にするとか、母の時代へのトリップでジブリ的な感動作にするハズです。

結局、『未来のミライ』は、細田監督の絞り出したアイデアをテーブルに並べ、取捨選択をせずに、全てを丁寧に作ってしかった感の強い作品。だから「細田守カタログ」になってしまっています。

ファンとしては現在の細田監督のポケットの中を覗き込む様で興味深いのですが、作品としては纏まりに欠け、観客に感動を与えるものとは成っていません。

2018/8/10  11:55

投稿者:人力
よたろう さん

出先の携帯からなので先づは短くお返事を。私も今期のダークホースとしてプラネットウィズに大注目です。と、先生はおっしゃっている。

2018/8/9  21:11

投稿者:よたろう
『“エヴァは見たことがない”とか言いつつ庵野を気遣う連絡を入れてた宮崎駿』

細田監督「2016年の作品群は一切見ていない」とか明らかな嘘を公言するのはカッコ悪いと思います。

前作が正直「金ローまでスルーすればよかった」レベルの出来な上、今作に至っては「2週目のジュラシックワールドに負ける」という異常事態。
私も「未来のミライ」見るべきか悩みましたが、人力様の記事を見て心置きなく「金ローまでスルー」する決心がつきました(無慈悲)
どうやら私の望む内容でな無いようですね(ダジャレ)、前作も言いましたがホント脚本だけは別の方に任せれば良いのに。

それよりも今月は「実写版銀魂2」や「ペンギンハイウェイ」と他に見たいものがありますし。
銀魂はハードルが下がっていた分前作がそこそこ面白かったので今作もヨシヒコのノリが好きなら楽しめそうです。
ペンギンハイウェイは森見登美彦最高傑作と言われながら原作はタイトルしか知りませんしアニメスタッフも未知数故不安ですが。
未知数だからこそ大体察しが付く細田作品よりかはドキドキ感がありますし…

あと今期は前期の閑散と打って変わってTVアニメ豊作のクールですからそちらを追うのも手一杯です。
「プラネットウィズ」を観ると2流以下のアニメライターなんてクビにしてプロの漫画家にシナリオ頼めばよいのになんて思ってしまいますw

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