動き出した歯車を止めることは出来ない
回り出した運命の環に逆らうことは出来ない
こうなることが定めだとしたら
もう引き返すことなど出来はしない・・・
夏休みも終わり、秋の訪れを少しずつ感じさせる季節になった。
生徒達は学園祭の準備に追われ始めていた。もちろんそれは、彼ら四人も同じ事だ・・・
「と、いうことでA組のクラス企画は焼きそばの屋台ということに決定しました。何か意見、質問のある人はいますか?」
学園祭委員を務める蓮の声が教室中に響いていた。その傍らには、忙しそうにアンケートの集計を行う華の姿があった。
HRの時間も終わり、放課後になった。尚は三人にこんな提案をした。
「なぁ、学園祭で俺たちのライブをやらないか?」
「ライブ?!」
三人は声をそろえてそう言った。さらに尚は言葉を続けた。
「夏休み、何度も集まって曲を作ったり、セッションをしたりしてきたけど、俺たちまだライブは経験してないだろ?だから、今年の学園祭で最初のライブをやるんだよ!」
尚は瞳を輝かせながらそう言った。
「ライブかぁ・・・うん!私やりたい!!」
翼も尚の意見に賛成した。
彼らはこの夏休みのほとんどをバンド活動に注いでいた。
翼と尚は音合わせ、そして作詞、作曲を。蓮は主に発声練習をし、自分だけやることが少ないと言って編曲を手がけた。
華に至っては、ベースを弾くということは初めての経験だった。しかし、持ち前の飲み込みの速さで、ベースを弾きこなせるようになると、翼や尚が作った曲を自分なりにアレンジするようになった。
「俺らの実力を試すにはちょうどいいよな」
「うん!翼と尚が作った曲、蓮の歌声、ギターとベースのサウンドを、学校中の人に聴いて欲しい!」
蓮も華も満面の笑みで賛成をしていた。
「じゃあ早速で悪いけど、蓮と華で学園祭の時にステージが使えるように生徒会に申請してきてくれないか?二人はちょうど委員だし」
尚のその言葉に、蓮と華は元気よく返事をして生徒会室へと向かった。
二人の行動の速さに、尚はしばし呆然としていた。
「あの二人、かなりはりきってるね。私らも負けてられないよ」
翼の言葉に尚も笑いながら頷いていた。
それから、学園祭のライブに向けて準備を始めた。
翼と尚は学園祭用に新しい曲を作ることにした。ところが・・・
「やっぱりこの曲のタイトルは『過ぎ去りし日の想い出』ってタイトルが良いと思うの」
「俺は日本語より、英語のタイトルが良いと思うけど?」
二人は新しく作った詞のタイトルをどうするかもめていた。
「でも私は、この言葉を使いたいんだよ」
そこに委員会を終えた蓮と華がやってきた。
「二人とも曲作り頑張って・・・る?」
ただならぬ雰囲気に、蓮は言いかけた言葉の語尾を濁した。
「喧嘩したの?」
華は心配そうにそう聞いた。
「違うよ。ちょっと曲のタイトルのことで尚と意見が食い違っちゃって」
「なぁ翼、やっぱり英語のタイトルに・・・」
「でも、聴く人に過ぎた想い出の曲だってことをタイトルからも分かってもらいたい・・・」
「【Memories of the past】」
翼の書いた詞を見ながら、突然蓮がこんな英語を発した。
「このタイトルなら、翼の使いたい言葉も、わーやの言う英語でのタイトルって条件もクリアだね」
「華もそう思う?俺ってタイトルつけるセンスあるかも」
蓮と華のそんなやりとりに、翼と尚は頭の上に『?』マークを点灯させながら見ていた。
「ちょっと待って。さっき蓮が言った英語がこの曲のタイトルだってことは分かったんだけど・・・」
「俺、早すぎて聞き取れなかった・・・」
二人のその言葉に、蓮は説明を始めた。
「さっき俺が言った【Memories of the past】っていうのを日本語に訳すと『過ぎし想い出』ってなるんだよ」
その言葉を引き継ぐように、今度は華が話し始めた。
「【Memories of the past】なら、翼が使いたい言葉も、英語のタイトルがいいって言ったわーやの希望も叶うでしょ?」
「・・・ねぇ尚、なんで気がつかなかったんだろう?」
「さぁ・・・」
蓮のアイディアにより、この問題は解決された。
そして再び、翼と尚が曲作りに入ろうとした時、華がこんな質問をした。
「ところで、バンド名は決まってるの?」
「うん。決まってるよ。華たちをバンドに誘う前から決めてたんだよ」
「知らなかったな。で、どんなバンド名?」
今度は華の代わりに蓮が尋ねた。
「『LEAF CROWN』で、直訳すると『葉っぱの王冠』って意味になります」
「綺麗な響きだね!」
「俺もその名前いいと思う!」
二人はこのバンド名をとても気に入ったようだった。
「『LEAF CROWN』のLEAFには葉っぱのように光を求める純粋さ、一途さを忘れないように成長しようって願いを込めて、CROWNは字のごとく頂点、栄光を掴むっていう俺たちの強い意志」
尚はバンド名に込めた自分の思いを存分に伝えた。三人の胸には、いつまでも彼の言葉が響いていた。
そしてここに『LEAF CROWN』誕生。

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