「『1日5分 「よい習慣」を無理なく身につける できたことノート』★★★☆☆」
Citation and Reference
『1日5分 「よい習慣」を無理なく身につける できたことノート』
永谷 研一(著)
2016年
クロスメディア・パブリッシング
★★★☆☆
主に20〜30代辺りの比較的若い社会人を対象とした自己啓発系ビジネス書(?)。繰り返しの毎日の中で悶々とするだけの変わらない自分から抜け出す手助けをしてくれる本。「変わり続ける存在」としての自分に気付かせ、ある程度一貫性のある「次の一歩」を楽しんで踏み出し続けられるよう支援する仕掛けが「できたことノート」。もちろん学生さんや逆にもっと齢を重ねた人が読んでもいいだろう。
全5章構成。「できたこと探し」の効用、「できたこと」を見つけるための着眼点、踏み出すべき「次の一歩」の探し方、「できたことノート」の書き方、効果が出ないときの注意点・自分らしさの発見、といった内容。判型サイズも小さく、1ページ辺りの文字数も少なめ。文章は完全な口語体で、半日で読み終えられる薄い本に仕上がっている。読み始める前は、認知行動療法を一般向けに再構成したワークブックのようなものを想像していたが、どうも違うようだ。
良くも悪くも「研修ビジネスのプロによる本だなぁ」という印象。「コンサルタント話法」と言うか、こういう人は上手にお話を作る。「騙されないぞ」という気持ちで読み始めたのだが、自己啓発系の話には「信じる者は救われる」的な側面があることもまた事実。騙されてしまった方が効果があるのかもしれない。途中から「騙されてみようか」という気にもなってきた。
『できたことノート』というタイトルから、自分の「できたこと」をどんどん書き出していって、いい気分になりましょう(自己肯定感を高めましょう)、そうすれば行動が変わります!という主旨なのかな?と考えていた。ただ、いい気分になることは大事だとは思うが(少なくともクヨクヨしているよりはよっぽどマシだが)、それだけで行動が変わるだろうか? いい気分になってそれでどうしようというのか? 本書の面白いところは「いい気分になる」ことそのものが目的なのではなく手段だというところ。何の手段かと言えば、建設的・前向きに「反省する」ための手段なのである(本書では「反省ではなく内省」とされているが、まぁ同じことである)。
「できたことノート」は、「常に変化し続ける自分」に心躍らせ、ワクワクした気持ちで「次の一歩」を踏み出し続けるための、ある程度マニュアル化された「反省術」。同時に、自分自身の価値観や強みに気付かせ、「次の一歩」に一貫性をもたせるための仕掛けでもある。社会人としての業績アップに結び付くかどうかはさておき、「活き活きとした毎日を送る」ことができるなら万々歳だ。
やることは簡単で、毎日その日に「新しく(久し振りに)できたこと」「より良くできたこと」「継続してできたこと」等を1〜3個見つけノートにメモしておく。週に1度(例えば週末に)、「できたこと」の中から1つを選び、「何故できたのか」「それで本当に良かったのか」「次はどうするべきか」についてジックリ考える(「ジックリ」と言っても、10〜15分程度を想定しているようだ。考えを深めるためのヒントも用意されている)。行動の改善点が見つかったら、翌日(翌週)からすぐに実行に移す。これを「繰り返す」。一連のサイクルに終わりはない。このサイクルを楽しんで回していくことがポイント。
キーワードとなるのは、「悶々とワクワク」「希望と絶望」「自分らしさ」といったところか。「悶々」とするのは、日々変化しているハズの自分自身の姿が見えていないから。毎日が同じことの繰り返しで、成長することなく年だけをとっていくように感じてしまう。人間というものは「もっと良くなる」と思うからこそ「希望」をもてるのであって、「これ以上はない」と思えばどんな成功者でも「絶望」してしまう。「ワクワク」とした気持ちを持ち続けるためには、自分自身が(良くも悪くも)毎日変化していることに気付かねばならない。同じような毎日の繰り返しに見えて、人は少しずつ少しずつ変わっている。「変わらない自分」なのではなく「変わっていることに気付かない自分」なのだ。そのせいで悶々としているのだから、「自分に対する見方」が少し変わるだけでマンネリから脱し、毎日を「面白がれる」ようになることだってあるのだ。
僕は一番の「人間らしさ」は「つい工夫してしまう」ところだと思っている。「面白がり精神」で自分自身の毎日を眺めてみれば、「工夫」できる点はいくらでもある! そんな「工夫」の積み重ねを意味あるものにする秘訣は、本来の目的を忘れずに「工夫」の方向性をある程度揃えること(人はすぐに近視眼的になってしまう!)。そのための「軸」の役割を果たすのが、「人生において自分は何を重視しているのか」という価値観と、
「自分のどんな点を他者は評価してくれているのか」という自分自身の長所。ところが、この「軸」の定まっていない人が多いのだと思う(もちろん僕もそうだ)。
僕が面白いと思ったのは、ポジティブな気分になったときの方が自分のネガティブな側面を直視できる、という指摘。うまくいかないとき、誰だって後ろめたい気持ちになっている。その上責められたら、防衛・防御的な気持ちになってしまう。そうなるともう「言い訳」しか出てこなくなる。ところが、「言い訳」している限り、絶対に行動は変わらない。とってしまった行動の正当化のための「言い訳」なのだから。だから何よりも、防衛・防御的な気持ちにならないようにすることが重要なのだ。他者に対してだけでなく、自分自身に対しても正直になる、ということは意外と難しい。叱られたり説教されても行動が改まらないことが多いのはこのためだ。
そのためにまず自分を褒める。誰も褒めてくれないんだもん、せめて自分で自分を褒める。そうやってポジティブな気分になって初めて、自分と向き合うことができる。自分を見つめると(そのためにも「できたことノート」を活用する)、自分の長所や短所、そして何よりも「自分はどう生きたいと思っているのか」が見えてくる。そのことによって、歩むべき「次の一歩」が自ずと見えてくる。あとはその一歩を踏み出せば良いのである。自分らしくノビノビやっているときにこそ、人は活き活きするワケだから。
と言うワケで、この「できたことノート」には、
・「変化し続ける存在」としての自分に気付かせる
・自分の価値観や長所に気付かせる
・踏み出すべき「次の一歩」に思い至らせる
・活き活きワクワクと充実した毎日を送らせる
・自分の人生に対する満足感を高める
等の効能がありそうだ。それを誰にでもできる簡単な「仕組み」としてまとめたのはうまいと思う。もちろん、どんなときにモチベーションがアップするかは人それぞれなので、この方法が誰にでも効くとは思わないが…、著者は3か月で効果を実感できるハズだと言っている。ちょっと試してみようかと思う。
本文165ページ程度。
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Kota's Book Review

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