「坂田アキラの数Vの微分積分[極限・微分編]が面白いほどわかる本(中経出版)」
徒然レビュー
知る人ぞ知る坂田アキラショックがついに数Vにも?とにかく視覚に訴える構成
「坂田アキラの数Vの微分積分[極限・微分編]が面白いほどわかる本」(中経出版)
※05年10月3日「徒然レビュー」執筆分に加筆修正
板書のような紙面と独特の軽妙な語り口で人気の坂田アキラ先生の最新作。数学Vから「極限」「微分」を解説している。とくに前者は、理系を志す受験生の多くが序盤でつまずいてしまうところだが、教科書事項から楽しく導入してくれるので、この分野に苦しんでいて何とかしたいという人はぜひこの本を見て欲しい。高2内容までの復習も含めた教科書事項の導入から丁寧に説明してあるので、ひととおり授業は受けたが数学U・Bの後半あたりから基本事項が使えていないという受験生にはもちろん選択肢の1つになる。その他、数学Vをまだ習っていないが受験を見据えて早めに予習しておきたいという人にも文句なしにおすすめである。08年12月、かねてより要望の多かったであろう「分数関数・無理関数」等の内容を加えたれた「パワーアップ版」が発売された。
まず何と言っても、とにかく必要事項を読む人の頭にねじこんでしまうような勢いのある、独特の紙面構成が最大の特徴。すでに何冊か出ている本も力作ぞろいだったが、あのノリもさすがに数学Vでは実現不可能だろうと筆者は思っていたところが、見事にくつがえされてしまった。本の出来ももちろん標準以上であるが、それをやろうとしたこと自体にまず敬意を表したい。答案の横に必要な基本事項を書き込むのは他の参考書でもよくみられる手法だが、この本では特にそれが多い。また、図を併用した解説や導入の中でも、本文中の数式がどのグラフと対応しているかを矢印で結びつけてわかりやすく示している。板書、またそれを指し示す講師の身振り手振りまで含めた「授業」をそのまま本にしたらどうなるかを地で行っていて、とにかく手間がかかっている。慣れないと確実に面くらうが、視覚に訴えるイメージ重視の解説は、とにかく難解で「お堅い」数学Vのイメージを変えてくれるかも知れない。
また、意外と見過ごされやすいことだが、問題の解説がビジュアル的な説明を多用した「ナイスな導入」と、答案形式を主とした「解答でござる」に分かれており、この本を含めたシリーズの中でそれを貫き通している点も筆者は高く評価している。実は筆者も最初は「別に同じことを2度も言わなくても・・・」と思っていたが、指導上で思い当たることがあり、その奥の深さを再認識した。分けることで、初学者にはまず前者で全体像を見せてから後者で詳細に注意を向けさせることができるし、問題演習がしたい人には先に後者で答え合わせをしてから、イメージがわかない箇所(予備校の授業なら、受けたあとすぐ講師に質問に行くであろうところ)だけ前者で確認すればよい。さらに、この本の内容をマスターしてしまった人が復習や確認のために読むのなら、前者だけ読んで理解できればすぐ次に行くようにして、念押ししておきたいところだけ後者で確認すればよい。このような「2回目以降の使用」「答案形式と非答案形式の使い分け」を意識してみると、講義調に限らず参考書のあるべき究極の姿に一番近いのが、このシリーズではないかとさえ思えてくる。いっとき、答案のど真ん中に基本事項の復習が割り込んでくるスタイルの本が複数の著者・出版社で出てきたことがあったが、あのスタイルは1回きりならいいが2回目以降に読もうとするとあのブチブチ感が逆に苦痛になるので、マーク式の解答一覧で答え合わせができるセンター本以外ではやらないで欲しい。
最後に、この本の難点ではないが、読んでいて率直に思ったことをひとつ言っておきたい。それは「丁寧にも限界がある」ということだ。この本のように、同じような図が複数の問題の解説部分に登場しているのをまの当たりにしてしまうと、いちど説明したはずのことを出てくるたびごとに「わからない」と質問され、その都度最初に戻って説明せざるを得ない(そうしないと生徒さんからの評価が下がる)現場の指導者の悲痛な叫び(?)が聞こえてくるようだ。坂田アキラ先生のシリーズを含め、何でもかんでも答案のページに書いてある本がウケるのは、何か分からないことがあったときに、今の「自称・受験生」は教科書で基本事項を確認するということがそもそもできないからに他ならない。少なくとも数学Vに関して言えば、初学者段階を脱出できるかどうかの境目は「分からないところを自分で調べる」ことができるかどうかだと筆者は思っているので、何でもかんでも丁寧に説明するのが果たして生徒さんのためになっているのか、悩むことが多い。
この本はある時期の生徒さんにとって大きな助けになるだろうが、それはあくまで自分で過去問演習に取り組めるようになるためのステップにすぎない。最終的に勉強するのはあくまで自分であるという意識を持ち、書かれている内容は1度で理解してしまうつもりで取り組んで欲しい。
【リンク】
※こちらが新発売「パワーアップ版」極限・微分編/積分編へのリンクです。
※こちらは旧版へのリンクです。古本などで安く入手できるメリットもあります。