定番書であることは認めるが、それだけに言いたいことも山ほどある
「青チャート」(数研出版)
【評価】※1〜10の10段階評価
−総合:6(新課程版)/5(現課程版)
−基礎から学ぶ人向け:3(新課程版)/2(現課程版)
−中級者が「重要例題」メインで使用:7
−学校で使っている:指導者しだい(持たされているだけ:論外)
もとより高校生の平均的なスタートレベルは年々低下しており、対して目標到達点はあまり変化していないわけだから、そのギャップを乗り越えさせられる参考書作り自体が年々難しくなるわけだが、全体として作り方には苦労が伺える。特に現課程版は教科書レベルから節末・章末で扱われるレベルへの橋渡しが弱く、破綻気味であった。のちに発売された「ワイド」で内容的にはようやく「完成」したような印象で、それを土台に編集されたと思われる新課程版はだいぶ使いやすくなったが、これで大丈夫と太鼓判を押せるレベルではなく、このレベルの総合参考書が果たして存在できるのか、特にここ数年筆者も頭を悩ませている。
この本を語るうえで「定番」という評価、そのもとになっている「網羅性」(教科書学習時に重要である問題、演習で差がつく問題をいかにもらさず収録してあるかということ)というポイントは決して外せない。が、例題だけでもかなり多いし問題によって難易度にかなりバラつきがあるので、初学者が頭から解いていくのはまず無理。逆に、教科書内容をある程度押さえてしまった人にはムダが多くなる。付け加えるなら、この本の「重要例題」レベルを中心にやりたい人には「1対1対応の演習」(東京出版)という本があり、そちらの方がまとまりが良い気がする。少しだけひねった問題を集中的に演習したいという人にも「チェック&リピート」(Z会出版)という選択肢があり、前述したようにこの本で学ぶ必然性を筆者はまったく感じていない。
「まず授業と並行してやるならここからここまでは押さえようね。そのうえで、こんな問題やこんな問題にも触れて、最後にこれにチャレンジするぞ」・・・本来、学習とはそういう流れの中でしていくもののはずだが、それを無視してただ例題を並べ節末・章末に問題を固めただけの印象がどうしてもぬぐえない。学校採用で突飛な問題を解説、いやそれより「解き進め方」を指導者側でフォローしてくれる、もしくはすでに持っていてどうせやるなら本を増やしたくないという限定でしか薦められない。特に現課程版は節末・章末の演習問題の数が多く、例題に採用できないが載せたい問題を何でも詰め込んだ結果と思われる。皮肉なことに、筆者自身も、問題を「分ける」ことで本全体のバランスをとる重要性を、この本を通じて強く認識させられた。
何か1冊持ちたいというとき、「赤は随一の網羅性を誇るが実用性に乏しい。黄では内容的に不足・不安。名前からして青ぐらいかな」・・・そんな「参考書選び」もそろそろ限界に来ているのではないだろうか。
【基礎知識】
いわゆる「網羅系」の定番として幅広く使われている。本書「青」の現課程版は新編集であったが、完成度の低さが目立ち、改訂版と「ワイド」と呼ばれるマイナーチェンジ版が発売された。新課程版は「ワイド」がもとになっており、例題数も多くなった。例題で扱われている内容は、「基本」と「補充」だけ見ると「黄」とあまり変わらないが、教科書学習後に取り組むことを前提として収録された「重要例題」まで手を伸ばせば、一段上のレベルに触れられる(ただし、ここまで含めて教科書学習時にマスターできる人はごく一部であると思われる)
和田秀樹氏の提唱になる「暗記数学」と何かと結びつけられやすい本でもある。
正式名称は「チャート式 基礎からの」であるが、一般的に「青チャート」で通っているので、当レビューではこちらの呼称を用いる。
【リンク】
※18年現在「T+A」「U+B」の最新版は「改訂版」です。「新課程版」は1つ古い版で、
「V」はこちらが最新版になります。
○改訂版(16年11月以降、「T+A」より順次発売)
○新課程(12年度以降の入学生対象)