今の勤務校に来てから、中1の幾何を毎年担当しています。
幾何というのは厄介な科目で、日ごろの学習をきちっとしているつもりでもテストとなると良い点がとれない生徒がいたり、逆に、他の科目がからっきしダメでもこの科目になると途端に力を発揮する生徒がいたりします。勤務校ではどの教員も
「授業に集中しましょう。宿題を欠かさずやりましょう。日ごろの確認テストをしっかり取って、中間・期末に繋げていきましょう」
・・・というノリで指導をしており、筆者もその方針を受け入れているわけなのですが、それだけではない、生徒の奥底にある数学への関心や、自分がやりたいと思ったことを成し遂げるパワーといった部分をもっともっと評価してあげたいとも思っており、そのための企画をいろいろと考えています。
その1つとして、1学期中間考査の済んだこの時期に幾何ではいわゆる「自由課題」を出すようにしています。内容は、簡単に言えば「ものづくり」です。使う材料やきれいに見せるためのアイデアも各自に任せ、実物を持ってくるほか写真に撮って持ってくるのも認めることにしています。実際にやってくる生徒は少数、それも学習面でかなり余裕のある層に限られますが、ペーパーテストでは測れない、彼らの底力のようなものを感じることができ、課題を出す側の自分も毎回勉強させられることがあります。
これまでにも、「空間図形」の分野で立方体を平面で切断すると三角形・四角形・五角形・六角形が出現するという話をしたあと、五角形の切り口を実際に作ってもらったことがあります。
画用紙や厚紙で立方体を作ってからそれを切る「作品」が多いですが、昨年度は、発泡スチロールで立方体を作って切ってくる者がはじめて出現。変わったところでは、大根を立方体に見立て、それを包丁で切ったところを写真にして持ってきた者がいました。また、厚紙で作った生徒の中にも、「平行な2平面を別の平面で切断すると、できた2つの交線は平行になる」ということをきちんと考え、方眼のます目を数えて切り口を作ってくれた者もいます。
提出された「作品」はしばらく職員室の机の目立つところに置いておくので、他の先生が見つけて話題にしてくれたりしますが、やはり「発泡スチロールさん」や「大根さん」は今は荒削りだが将来的に伸びる可能性を垣間見せてくれる生徒、「方眼さん」は試験範囲をきっちり押さえて定期考査では常にトップをとりにいく生徒だなあ、という話になります。日ごろの学習、というか生活全体に対する姿勢が、こういう課題を出してみることで改めてよくわかりました。
・・・そして今年度は、また新たなネタを用意しました。
勤務校で使っているテキストでは、この時期に「面積と長さ」を扱うことになっていますが、中学では円周率を「π」という記号で表す以外は特に目新しい内容はなく、問題の題材としては、正直言って中学入試の方が高度でかつ面白い題材を扱っています。そこで、筆者自身も小学生用の参考書をときどき読むのだけれど、そこに「ルーローの三角形」なるものが載っていて大変おどろいた、という話を持ち出すと、受験時代の記憶がよみがえるのか、生徒は決まって近くの席の者や塾で一緒だった友達とあれこれしゃべり始めます。
ここからしばらくルーローの三角形が転がるところをイメージさせ、定幅図形であることを説明したりするわけですが、説明するだけでなく、実際に作ってころがしてみたら面白いだろうという話になります。中間考査までに「作図」を学んでいますから、正三角形を作図し、3つの頂点を中心とした円弧を描き足せばルーローの三角形はわりと簡単に作れます。今年はぜひこれが見事に転がるさまを生徒に見せたいと考えていたのですが、どうせならいっそ生徒に作らせてみようと思い立ち、これを自由課題にしました。
するとどうでしょう。今年は、
*** 私の想像をはるかに超える力作!!
がやってきました。ルーローの三角形以外にきちんと「台紙」がついており、その「地面」のところには、薄い発泡スチロールの板を色つきのビニールテープで止めてあります。が、それ以上に最も感心したのは、ルーローの三角形の3箇所にボルトがついていて、取っ手のように持って動かせるようになっていたことです!・・・正直、ここまで気合い入れて作ってくれるとは思いませんでした。さっそく、次の授業の最初に紹介することにします。
それにしても、中学入試のためとはいえ、塾ってのは本当にいろいろなことを教えてくれるもんです。算数で言えば基礎的な計算力や知識量の面である種のトレーニングを受けてきている彼らですが、大半の内容は、入試が終われば忘れてしまいます。そこで残るもの、彼らの文化、そして世界観とでも言うべきものこそが重要なのであり、我々はもっとそこに目を向けてやるべきなのではと、今さらながらに思うわけです。
・・・さて。
最近はこういうネタを扱ったウェブページも増えました。検索で見つけた中から1つ、ルーローの三角形が正方形の中を転がる動画を公開しているものを紹介しておきます(→
http://hp.vector.co.jp/authors/VA041064/structure/ruro.html)。どういう人が書いているのかを含めて、興味がありますね。