当「レビュー」は、巷にあふれる数学参考書・問題集を分類・評価し、同時に皆さんのレベル・用途・志望に合わせた適切な参考書選びを支援することを目的としています。
書店では大変多くの参考書が売られており、もちろん中には良質な本も多くあるのですが、実際に使ってみるか、現場の指導者の目で見ていかないと分からない部分も多く、本当は良い本なのに
*** 知られていないという理由だけで
皆さんに使われずに眠っている本が、世の中にはまだまだ多くあります。また、数学は1問の問題を解くのに時間がかかりますから、参考書を使って勉強すること自体とても難しく、危険も伴います。ですから、教材選びの際には出来るだけ多くのものを見比べて、本当に気に入ったものを選んで欲しいのですが、これだけ多くの中から、生徒さんだけの力で最適なものを見つけるというのは、実際問題として無理な話です。
デパートの洋服売り場に行き、店員さんに「こういう服が欲しいんです」と言うと、売り場にある何着もの中から、候補をいくつかに絞ってくれます。そこに、全部の中でいちばん自分の欲しいものがあるかどうかは確かではありませんが、これをしてもらうとこちらも選びやすくなります。結果として、全体の中でもかなり理想に近いものを、少ない手間で手に入れることが出来るのです。また、相談する際に、欲しい色やタイプを直接言わず、「今着ているコレと合わせたいんです」などのように言うことも出来、その場合も、店員さんは常識の範囲で、合いそうなものを探してくれます。さらに、オーダーメイドのワイシャツのコーナーに行くと、ソデ口の形やえりの形、ネームの色などが分類されたサンプルがあって、私たちは、実際に見たり触ったりして確かめながら「このタイプにしてください」と注文することも出来ます。こうやって買うのと、バーゲンなどで商品が山積みになっている中から買うのとでは、同じ買うにしても自分の欲しいものを探す手間、そして選んだものに対する満足度がまったく違うと思います。安いことも確かに重要ですが、
*** いかに「納得して」買うかも商品の価値の一部ではないか
と、筆者は考えます。もちろん人間どうしのことですから、店員さんには好き嫌いもあるでしょう。でも、店員さんとの関係が買い物の重要なポジションを占めているのも、確かではないでしょうか。
参考書に関しても、そういう相談役やサンプルなど、選ぶのに役立つ情報が必要だと筆者はつねづね感じていますが、参考書の専門家がいて、本選びの相談にのってくれたり、本ごとに見るべきポイントを整理して分かりやすく提示してくれていたりする書店は(筆者の知る限りですが)ありません。本の流通システムや値段のつけ方、そして発行部数など、業界の事情があるのでしょうが、これはただ単に書店さんだけの問題ではなく、教育界全体にとっての大きな損失とはいえないでしょうか。
筆者は、大学院を出てから自分のやってきたことを見つめなおし、母校で中学生・高校生に数学を教えたいと思いたちました(ちなみに今は母校でない学校で数学を教えています)。そして、高校数学を自分で勉強し直すことになったのですが、そのときの経験が筆者自身が「レビュー」を書き始めるきっかけになっています。これを読んでいる皆さんと同じように、いわゆる「受験本」「受験サイト」を探し、参考書の講評と呼ばれるものを調べてみました。
しかし、自分の思い描いていたようなものはほとんどなかったのです。
まず真っ先に不満に感じたのは、レビューの対象が定番本に偏りすぎる傾向にあること・・・先ほどのたとえ話で言えばその「品揃え」が不十分だったこと。そしてそれ以上に気になったのが、「とにかくこれをやれ!」のノリで、自身の学習法理論(指導理論)をとにかく連呼する内容のものが多く、デパートの話に置き換えれば幅広い年齢層の好みを熟知した「店員さん」が非常に少ないことです。あと、・・・これがもしかすろと最も重要なのかも知れませんが、そういう情報を発信している人のほとんどは受験勉強における「勝者」であり、とくにその人自身が使った本を評価する際、評価の要因を曖昧にしがちになります(本自体が素晴らしかったのか、それ以前に自分自身が学力・学習環境的に恵まれていたのか等)。つまりは、数少ない店員さんもスタイルの良い人が主流で、「容姿に自信がないお客さんの気持ちを理解していない」ことが多いのです。
もし、これから勉強を始めようと思っている、数学のあまり得意でない生徒さんが、そういう偏った情報を鵜呑みにしてしまったら、どうなるでしょう?
特に、基礎をじっくり身につけないといけないレベルの生徒さん、受験勉強と呼ばれるものをこれから始めようという人、またいわゆる「再受験生」の皆さんのように自身のスタートレベルが把握できていない人は、
*** 公式や解法に関する知識だけでなく、本の選び方においても初心者
なのですから、アドバイスする際には、その人のおかれている状況をとらえ、我々が思っている以上に「こまやかに」対応しなくてはならないと思います。そして、どんな本を薦めるにせよ、その根拠も合わせて言ってあげるべきです・・・「納得」することですね。とにかく、幅広い学習段階の生徒さん、とくにこれから勉強を始める初学者の皆さんに対するフォローが十分でない、というのが悲しいかな「参考書評」の現状といえます。
そこで、筆者は自分で書く「レビュー」を、単なる体験談や受験生どうしの情報交換とは一線を画したものにしたいと思いました。もちろん、教科の指導者以外の話にも有益なものはありますからそれらをすべて否定するつもりはありません。自分と目線が近い人と知り合うことも大事です。ただし、その場合は、おかれている環境がひとりひとり違うことを意識し、必要以上に振り回されないように注意して欲しいということです。
・・・あと、筆者自身ももちろん当レビューの内容を日々実践しています。まずは頻繁に書店に足を運び、目についた本は必要・不必要に関係なくまず「手元に置く」ようにし、それらを常日頃から眺めるようにしています。そのうえで、気に入ったものは、多くの生徒さんに薦め、実際に使ってもらって感想を聞いたりもしています。最近は中学部での仕事が多く、機会はかなり減ってしまいましたが、幸い勤務校では中学生にも高校内容を教えるので、高校生でいえば初学者に近い皆さんを相手にするのと近い感覚で仕事をしています。
※ この記事は、以前にこちら(→
http://www2.odn.ne.jp/~cbf13380/Sanko-sho-2003-tmp/hajimeni.htm)に書いた記事の焼き直しです。この頃は、当時の少ない知識・経験だけしかない状況で、あと1年程度で書籍化しようと思っていました。