04年1月26日「徒然レビュー」執筆分より
「1対1対応の演習」数学T/数学A(東京出版)
難関大志望者が入試問題演習の前に使う演習書として、ひとつの定番になっているシリーズの新課程版。教科書学習を終え、網羅系をひととおり仕上げた終えたあとの力試し(アウトプット)用として、余裕があれば高1(一貫校なら中3)から取り組める。
旧課程版では、選題や解答・解説(とくに演習題)に一部突飛な箇所があってそれが挫折のもとにもなっていたが、今回はその部分がかなり改善された。収録問題のレベルも安定してきて、筆者が見ても「早めにこういう問題に触れておいて欲しい」と思えるものが増えた。また、とくに「2次関数」分野の選題にみられるように、通常の参考書や学校・予備校の授業で扱い&理解に差が出るところを集中的に補うという方向性がよりはっきりし、同時にこのシリーズの位置づけも定着した感がある。
依然として「使い手を選ぶ」という欠点はある。収録問題の性格上、中途半端な実力で背伸びして使うと、どの問題にも歯が立たず挫折してしまうし、実力的には十分でも、見たことのある問題にしか取り組めず、解法を覚えるだけになってしまう人には苦しい。いわゆる網羅系の例題を8割以上マスターしているのは前提で、さらに数学に対する苦手意識をなくしたうえで取り組みたい本である。また、解説云々以前によく考えないと理解できない問題・解法が多く出てくるので、どうしても解けないものは後回しにするなどの臨機応変さも使用者側に求められる。身の周りに質問できる指導者や友人がいればなお良い。
そこそこの大学の入試問題を何となく集めただけという本が多い中、先を目指したい受験生のニーズをよくとらえているとは思う。対象レベルや編集コンセプトからして難しい面もあるが、必要以上に敷居の高さを感じさせないよう、選題面にも解説面にも気を配った本づくりを引き続き求める。少々余談になるが、この「1対1」と同じレベルと選題で、解説に講義調を取り入れるなど、もう少し噛み砕いた感じの本が欲しいと思うこともある。