ブタの子育て
「ブタ語を駆使して事故防止」
「ブタ」を対象にして、「親と子ブタ」の「行動」を知りたくて、「お産」から「乳離れ」をする「20日」のあいだ「観察」し続けたことがあります。
「観察」の目的は「子ブタの圧死」による「損害の防止」ということでした。
特に、生まれて「3日間」は「徹夜」で監視すると言う熱の入れようでした。しかも、観察した「親子のペア」が十数組ですから、大変なものでした。
「子ブタの圧死」というのは、「親のブタ」が横になる時に、その「下敷き」になってしまい、「親ブタ」の体重で「子ブタが死亡する事故」のことです。これによって、時には「何頭」もの「子ブタ」を失うことがあり、「大きな損失」を被ることがあったからです。このため、どのような時に「子ブタの圧死」が発生するのか、どのようにしたら、「圧死を防げるのか」などを知る必要がありました。
なにしろ、「生まれた子ブタ」を、いかに「死亡させず」に一頭でも多く育てるか」が「養豚経営の要」の一つになっていました。そのようなことから、「優れた養豚経営者」は『一日何回、豚の顔を見るか』にかかっている」とも言われていました。頻繁に、「ブタの飼育場」に入り、ほんの少しの異常でも見つけて処置することが「経営」のうえで大事なことでした。
分娩が近づいた「親」は「分娩」のために特別に準備された「分娩の部屋」に移されます。
「お産」のつど、何回も水洗いと消毒が行われ、最後には「漆喰」で白くコーテングされた部屋で「病原」となる「微生物」は皆無になるように徹底的に排除します。
さらに「分娩」の兆候が現れて来ますと、「分娩のための柵」が造られます。この「柵」は、「子豚の圧死の防止」のための柵であり、分娩が近く成りますと「親ブタ」をこの柵に入れます。
このように「子ブタの圧死」にはかなり神経を使っているのですが、「完全」な「事故防止」をすることが極めて困難なことでした。
「親ブタ」の1回のお産での「生まれる頭数」は、おおむね「11頭」から「12頭」の間くらいです。
その当時の「養豚経営」で、「利益を上げるか、損するか」の分かれ目の「一つ」に「1回のお産」で「8頭以上」の子ブタを育てることが「条件」となっていました。
時には「2頭から3頭」の子豚を失うことがあり「その分の儲け」を失うことになりますから、「養豚の経営上」の大きな問題でした。
さて、いよいよ「お産」が始まります。
「お産」は、出来るだけ「短時間」で、しかも「途中」で休まずに「分娩」してくれることが「親子ともに健康」の条件となります。ですから、「介護」が大事になります。
さらに、「ブタのお産」は、ほとんどが「真夜中」に集中します。薬剤によって「分娩」の時間を調節することも可能なのですが、「自然分娩」のように「一定の時間」で「生まれない」こともあります。どうしても「人手が不足」するとき以外は応用しないことにしていました。
生まれた「子ブタ」はまず体重を量ります。
つぎに「口を開き犬歯」を切ります。こうしておきますと「母親の乳房」を守り、子ブタ同士の「じゃれあい」でも傷が付きません。
さらに大事な「介護」は、「子ブタ」に母親の乳房を教えます。
親には16個もの乳房が付いていますが「乳の出方」に違いがあります。うえの「乳房」が上等な乳房であることが多く、乳の多く出る乳房にしがみ付いた子ブタが発育が良く成ります。子ブタの発育をそろえるのも「技術」の一つであり、「発育」の悪そうな子ブタに「上等な乳房」を教え発育の違いを少なくします。
子ブタの「圧死」は親ブタが「オッパイ」を与える時に起こります。何故かと言いますと「親がオッパイを与える時」には必ず「横たわって」腹の下にある「乳房」を子ブタたちに「さらけ出す」必要があります。
事故は「親ブタが横たわる時」に「子ブタ」が犠牲になります。
なにしろ体重が「100キロ以上」の「親ブタ」ですから「数キロ」の子ブタはひとたまりもありません。
観察を始めて「すぐに分った」ことは、「親ブタが子ブタ」に「オッパイを上げたくなる」と「子ブタ」に対し「ある信号」を「送る」と言うことでした。
その「信号」とは、「横になるぞ、横になるぞ、危ないから遠ざかれ」と言う「信号」なのです。
この「信号」を「キヤッチ」した子ブタたちは「親ブタ」から「一斉」に遠ざかります。「10頭ほど」の「子ブタ」が「一斉」に走り出すのですから、そのさまは「蜘蛛の子」を「散らす」の「表現」が、最も適切な表現に思えました。
その時の「親ブタ」の「信号」ですが「左右の後ろを見ながら、短く「ブッブッ」と声を出します。さらに、「後ろの足」は「左右交互に足踏み」をします。
この信号が始まりますと子豚は一斉に跳び散ります。
中には、「親の言うことを聞かない子ブタ」もいます。
それに対しては「威嚇か、怒り」の声を出し時には後ろ足でかなり強く『蹴り』ます。蹴られた子ブタは「壁の方まで飛ばされる」ことがありますから「相当強い蹴りだな」と感じられるのですが、これによって「怪我」をするような「子ブタ」はいませんでした。
この一連の行動によって「子ブタ」に対し「横臥」の意思を伝え、そのうえで、「静かに横になろう」とするのですが、何分にも親の体重が重いものですから最後は「ドスン」といった感じで横になります。
さて、ここで「圧死」に巻き込まれる「子ブタ」ですが、
「親の信号」を「理解できない子ブタ」が「まず犠牲」になります。
この「子ブタ」は、親が必死になって『信号』を送り「後ろの足」で「蹴っ飛ばし」てもなおかつ「親の腹の下」から離れようとしない「子ブタ」です。
あるいは、「聴力に障害がある」のか「親の信号を理解出来ない」のか、「僅かですがいる」ことが分りました。この「グループ」は生まれつきの性質から来るものと思われます。
次に「単純な事故」による「グループ」であり、「逃げ遅れ」によるものでした。
これらの「グループ」だけであれば「損害」も小さく「自然淘汰」の範囲ともいえます。
次に多く発生するのが、「病気」に罹った「子ブタ」でした。
この時期の「子ブタ」は「デリケーと」であり、「集団での下痢」や「呼吸器系」の病気にかかり易く、そのうえ、「子ブタ」はすぐに「弱り」ます。
そのほかにも、「親ブタの乳房炎」に由来する「母乳の不足」などでも「子ブタ」は衰弱します。
このような時に、「圧死が急激に増加」します。
「熱と衰弱」のために 親が発する「信号」を「キャッチ」出来ないか、あるいは「キャッチ」しても「意識」が低下して動けないものなのか、いずれも動きが「愚鈍」になります。
このような時に「親の下敷き」になる「子ブタ」が続出します。
この調査を通して分った「養豚経営」のポイントは、「健康な子ブタ」を「高率」に生産することに「全力投球」することであり、この後の「肉ブタ生産」は「保証」されたようなものと思われました。また、遺伝的に「丈夫」で「肉質」の良い『系統』の「ブタ」を飼育することも大事な要素になるように思えます。
なお、 このときの「観察」によって「思いがけないこと」が分りました。
それは、「親と子」の「コミニケーションン」の取りかたでした。
「親ブタ」は、「ブタ語」と言ってもいいほどの「言語」を駆使して「自分の意思」を「子ブタ」に伝えようとします。しかも、「音声」だけでなく「ボディ」によって「意思を表示するべく「努力」するのです。
その幾つかを「紹介」しますと、
「オッパイを与えたくなった時(親ブタはまだ立っている状態)」に、
「かあちゃんが横になるから、遠くに離れなさい」と、「鳴き声と足を踏み鳴らして、命令する」。
「前記の状態で、親から離れない子ブタがいるとき」に「子ブタ」対し、
「言うことを聞かない子だ」と、「鳴きながら、子ブタを足で蹴る」。
「オッパイを与えるために、親が無事に横になった後」に、
「みんなオッパイを飲みナ」と、「短く、愛を込めて鳴きながら、オッパイをさらけ出す」。
「喧嘩している子ブタ」に対し、
「喧嘩しないで仲良くしな」と、「子ブタを鼻の先で突きとばして仲裁する」。
「餌離れ」の頃には「餌の前」で、
「これが餌だよ、食べナ」と「子ブタに餌をススメる」。
(これ以外にも、まだまだ沢山の「ブタ語」がありそうです。)
これらの「ブタ語」は「ブー」の音を基本に、
時には「短く」「ブツブツ」と「愛情」を込めて。
時には「鋭く、甲高く、長く尾を引き」ながら、「ブァーブァー」と「鼓膜が破れる」ような高音や、時に「グァグァ」と口を開き「噛み付く」動作で「警戒」、「怒り」を現します。
如何なる動物でも「親と子」のあいだには「言語」と言えないまでも、「意思疎通」の「手段」があります。
犬などでも、「人の話し」を少しでも「理解」しようと、必死になって「人の言葉」に耳を傾ける姿を目にすることができます。
動物達の「言語」に「耳」を傾けて見てください。
(お詫び)
「やたら」と「養豚経営」などと「堅苦しい表現」が入っています。
「言いたかった」ことは「ブタ語」のことでした。
なお、ここに「記載」した「表現」以外にも沢山の「ブタ語」が存在しそうです。
「ゴメンなさい」。

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