私(桃李庵主人)の生まれた年に二つの謎めいた殺人事件が起きた。
5月に狭山事件。11月にケネディ暗殺事件。
片方は私が生まれる前。もう一方は生まれてから数ヶ月後(だから、JFKが撃たれたときあなたはどこにいてなにをしていましたかと聞かれたら、ミルク飲んで寝てましたと言うしかない)。
この、狭山事件とケネディ暗殺には奇妙な共通点がある。
(1)被害者の親族には犯人(グループ)に
具体的な心当たりがある可能性がある。
(2)だがそれを明らかにすることは、
家の秘密や醜聞を明るみに出すことにつながってしまう。そのため親族は沈黙を守っている。
(3)そのためもあってさまざまな憶測を呼び、今もなお(真犯人の特定を含めて)
謎が解明されていない。
ただ違うのは、リー・ハーヴェイ・オズワルドが事件と何の関係もないわけではなさそうに思えるのに対し、石川一雄氏は多分本当に無関係であろうと思われること。
また、狭山事件では犯人であると名指しされた人々の中に家族(被害者の長兄)までがいるが、ケネディの場合、RFKは犯人側と仲間であるとは考えられないこと。
それにしても、なぜ私は狭山事件に「魅せられる」のか。
他にも気味の悪い冤罪事件や未解決事件はいくらもあつが、なんといっても狭山事件と三億円事件に一番惹かれる。
やはり謎だらけだからだろう。
「子供」にくらべて誘拐しやすそうでもない、活発で気が強くて大柄な女子高生が被害者。犯人は遺体の顔の下にビニールを敷いたり、遺体が掘り出される時にシャベルで傷つけられないように(という説がある)頭部の上に石を乗せて置いたりしながら、パンツはずり下ろしたり手ぬぐいや細引きで執拗に縛ったりしていてチグハグである。すぐ近くにある雑木林でなく、見つかりやすい農道(狭山名物の茶畑と麦畑の間。現在はアパートになっている)に遺体を埋めている。被害者のカバンと中身をなぜか別々に捨てている(カバンは偽物、つまり警察による捏造の疑いあり)。被害者の自転車に乗って被害者宅に脅迫状を届けに来て、自転車をそのまま返して、4キロ離れた現場に1時間雨の中を歩いて戻り、その途中で養豚場でスコップを盗んでいる(ことに、悪名高い高裁判決ではなっている)。自転車は律儀に返しているのにスコップはかっぱらいっ放しである。身代金を受け取りに来て、警官が張り込んでいることに気付き、黙って逃げればいいのに被害者の姉と5分以上押し問答している。にもかかわらずそこからまんまと逃げおおせている。そして、以上述べたようにいろいろ余計なことをして回り道しているくせに、姉に「時間がないからおら帰るぞ」などと言っている。
逮捕された青年(石川一雄氏)は、自分の兄が真犯人だと思い込み、兄をかばうため身代わりに服役するつもりで自白したというが、殺人そのものは一審で認めているのに(高裁以降で無実を主張)、以上の奇妙な行動の理由はまったく説明できず、供述が二転三転したり、「深い意味はないです」「おぼえていません」と言っている。
事件の直後から関係者が次々に変死している。近年千葉刑務所から仮出所した石川氏の自宅も石川氏が講演で関西方面に出かけている間に不審火で全焼した。
ひとことで言うと、
《計画を立てて実行する能力のある人物が、「被差別部落の不良青年たちが拉致・輪姦して殺害した」かのように偽装しようとした》
ように思える。ところが石川氏が犯人だとすると、
《計画性のあまりない人物なのに、吉展ちゃん事件などを参考に身代金目的の誘拐を企て、さらいやすい子供ではなく自転車に乗っている活発な女子高生をふと思いついてつかまえ、「にわかに劣情をもよおし」「強いて姦淫」した後、単独でいろいろ意味のはっきりしない行動をしながらわざわざ手間をかけて見つかりやすい場所に遺体を埋めた》
ことになり、つじつまが合わない。
以上について、最近読んだ本:
下田雄一郎(2006):『史上最大のミステリーを推理せよ!狭山事件』新風舎文庫
殿岡駿星(2005):『狭山事件の真犯人』星雲社
奥菜秀次(2000):『ケネディ暗殺・隠蔽と陰謀』鹿砦社
それぞれの本について、具体的に内容に踏み込むのは控えるが、それでも一応この項「書評」としておく。

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