人間、そういつも気を張ってばかりはいられない。
無防備になる瞬間というのがある。
それは、寝ている時と……トイレに入っている時だ。
私はそのどちらも赤の他人に無防備にさらした経験がある。
高校生の時、一人旅をしていて、ガラガラに空いたJRの車内で最初はうつらうつら…そのうち爆睡してしまったことがあった。
そのうち(あぁ私ってば今大口開けて寝てるわぁ〜……)と爆睡状態から徐々に覚醒。
そしてパッカーンと口を開けて寝ている自分を認識した時、うっすらあけた目に飛び込んで来たのは、満員の車内だった。
私にとっては旅行列車だが、地元の人には普通の通勤・通学列車だったのだ。
今さら閉じるわけにいかず、そのままパッカーンと口を開けたまま、寝ているふりをした。
トイレにいたっては、よくある話だが、新幹線。
カチャン!と鍵をかけたつもりだったのに、かかっていなかったのだ。
普通に走っているときは大丈夫だった。
カーブにさしかかり、ちょっとスピードが落ちた時、悲劇が…。
…ドアが勝手にシュルルル〜と開いたのだ。
シュルルル〜……バーン!全開。
慌てて振り返った私(ココでおわかりですね、和式ですよ、和式!)は、目をまんまるにして立ち尽くすサラリーマンの姿を見た。
「…あ、すいません…」ト、サラリーマンが言った。
そして…。
……シュルルル〜……ドーン!全閉。
サラリーマンは視界から消えた。
先日、姉がそんな無防備な他人の姿を目撃した。
スタバで姉が「トイレに行って来る」と言った。姉の位置からトイレは見えなかったが、私の位置からはよく見えていた。確かさっき男の人が入って行ったはずだ。でもずっとトイレを見張っていたわけじゃなし、いつの間にか出てたかも……。
だが出てなかった。
おまけに彼は鍵をかけていなかった。私と同じ凡ミス。
私とちがうのは、車椅子も入れる用のデカいドアのトイレだったこと。
普通にドアを開けた姉が見たものは、広いトイレの遥か彼方の便座に座る彼の姿。
彼にしてみれば、完全無防備な姿の上に、手を伸ばしても届かない遠いドア。
ここまで無防備な姿を見せられると、見てしまった方が申し訳ない気持ちになるらしい。
私の無防備な姿を見たサラリーマンと同じく、姉も、
「うわぁぁぁ!……す、すいませんっっ!」
と大声であやまり、走って戻って来た。
ナニもせずとも、相手にあやまらせる。
これぞ、ノーガード戦法。
ただし自分にも痛い。それも、かなり。

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